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愛、絶望、苦悩、孤独、未熟・・ゆえに、“ふたりぼっち”。 

     JOHN LENNON / PLASTIC ONO BAND  ジョンの魂

         

          Mother  マザー(母)
          Hold On  しっかりジョン
          I Found Out  悟り
          Working Class Hero  労働階級の英雄
          Isolation  孤独
          Remember  思い出すんだ
          Love  愛
          Well Well Well  ウェル・ウェル・ウェル
          Look At Me  ぼくを見て
          God  神
          My Mummy's Dead  母の死


 もう30年になるのか・・。
 1980年12月8日にジョンを凶弾で失って、今年で30年経ったんですね。
 そして、去る10月9日は生きていれば、今年で70歳の誕生日だった。

 ジョンのアニバーサリー・イヤーとして、最新BOXセットが発売されて、
 またまた、新たなるベスト盤「POWER TO THE PEOPLE」も登場して、
 今年巷で、ジョンの曲が溢れ、メディアがこぞって特集し、今年もスーパー・ライブ
 が開催されて、いつもよりジョン関連のイベントも多いのは、これが理由だ。

 思えば、私のブログは、ポールのことばっか書いてたなぁ・・って。
 ごめんね、ジョン。  けっして避けてたワケじゃないんだけど・・。
 ジョンの記事を書くのは、なんと5年振り。
 この“お祝ムード”に思いっきり乗っかるつもりじゃないんだけど、
 遅ればせながら、ジョン・レノンの話に、よろしくお付き合いを。
 
 では、久し振りのジョンの記事にどの作品をレビューしようか迷ったけど、
 今回は“実質的”な1stソロ・アルバムとなる「ジョンの魂」にしようと思う。

   

 芸術肌で、ずば抜けたロックンロールの才能とセンスを持っているが、
 繊細かつナイーヴで、人間的には屈折してて未成熟。

 誤解されるのを承知で書くけど、私は、ジョン・レノンという“人間”に対して、
 こんなイメージを持っている。

 いい年こいた30過ぎの大人が、幼いころに捨てて行った親に対して、
 「母ちゃ~ん!」、「父ちゃ~ん!」、「行かないで~!」と泣き喚き、
 くじけそうになる自分自身を実名で呼んで、「がんばれ、がんばれ」と励まして、
 挙句の果ては、これまで自分が愛し、頼り、信じ切ってきたものを列挙して、
 「あれは要らないし、これも要らない。 もう信じるもんか」と放り出してしまう。

 これらは、幼児性が高く、いつまでも大人になれないでいる一人の未成熟な男の、
 独りよがりな感情表現を恥ずかしげも無く、赤裸々に語っている以外の何ものでもない。

 ビートルズ時代のジョンが書いた素晴らしい楽曲群は、天才的感性と極めて芸術的で、
 比喩的な表現が特徴的なリリック(歌詞)になって、ポールとは全く異なる、
 独特の世界観を形成していた。

 しかし、このアルバムでは、、そういった世界観は完全に排除されていて、
 表現方法はジョン自身の感情、感覚に対して直接的でプライベート過ぎ。 怖いくらい。
 まるで、見ちゃいけない彼個人の日記を覗き見しているかのような錯覚にさえ陥る。

 ビートルズのジョンの曲のように、「聴いて癒される」とか、「表現が素晴らしい」とか、
 「前向きなエネルギーをもらった」みたいな気持ちになりたい人は、
 おそらく聴かない方が身の為だと思う。  いや、聴いちゃいけないアルバムだ。

 「ビートルズのジョン・レノン」は、ここにはいない。  もう存在しないのだ。

 ビートルズ解散のショックやダメージは、ジョン自身、想像以上だった。
 これを克服するため、1970年に、アーサー・ヤノフというアメリカ人精神科医が提唱する
 「プライマル・スクリーム(原始の叫び)」という精神治療法に興味を持ち、その年の
 4月から3ヶ月に渡り、治療を受けた。
 幼少期の心の傷やトラウマを告白し、正面から対峙して、叫ぶことで“心の病”を
 取り去る療法。  過去の苦痛や恐怖と“戦うこと”で解き放るのだ。

      

 この療法で、過去の内面に閉じ込められた潜在意識と向かい合えるようになった
 ジョンは、最も“己とは何か”という、真摯な問いの中に自らの表現を掘り下げていき、
 あらゆる信条を捨て、ヨーコとの愛の道を選ぶと決意したのが、この「ジョンの魂」だ。

 ビートルズの音楽は大好きだ。 ジョンもポールもジョージの曲も。 当然リンゴも。
 今までの私のブログを読んで頂けたら、どれだけ深く愛しているか解ってもらえると思う。
 しかし、このアルバムには、音楽以前の問題において好きにはなれない部分もある。

 “Mother”だ。 この有り得ない凄みを帯びた絶叫に度肝を抜かれた。 最初は。
 (ちなみに、この“Mother”のテスト・プレス時のアセテート盤のテイクを
  聴いたことがあるが、発狂したかの大絶叫は恐怖すら感じる。 このオリジナルすら
  “まとも”に聴こえるくらいだった。  とても発売できるモノではなかった)

 ジョンの母親に対する思い、それはこの歌唱、いや叫びを聞けば痛いほどよく分かる。
 しかし・・。 あえて世間一般の評価に反旗を翻してしまうと・・。
 それは、先妻シンシアとその間の息子ジュリアンのことである。

 たぶん一部では、昔から指摘されていたことではあると思うし、死後ますます神格化
 されていく、ジョンの伝説にケチをつける気は毛頭ないのだけれど、 近年魅了された
 若いファンにも知っていてもらいたいし、世間一般の評価は、あまりに盲目過ぎて、
 “真のジョン”の姿を捉えていないと思うからだ。

 ジョンがヨーコに“走った”頃、ジュリアンは5、6歳。  捨てて行ったんです。
 この曲が発表された頃、ジュリアンはまだ7、8歳だった。
 発表当時は解らずも、この曲を聞いたジュリアンは、こう思ったに違いない。
 「パパはそう歌うけど、僕だって、“パパ行かないで”って、叫びたかったよ」と。
 ジョンも、母親と同じ事を繰り返しただけなのだ。

 ジュリアンのレコードの本質も理解せず、まともに聴いたことがない私に、
 ジョンを批判する資格は欠けているだろうし、これはきっと少数派の意見だろう。
 ただ今までのジュリアンの発言を知る限りだと、彼はこう言っている。
 ヨーコに対しては、「彼女は僕の親父を奪った一人の女に過ぎない」
 ジョンに対しては、「僕は彼に可愛がってもらった覚えはない」    と。

 だから、私はジョンに対して、こう思うのだ。
 ジョンは、天才ではあったが人間的には死ぬまで“子供”だったと。


 ・・・・。   とはいえども。


 このアルバムが、ロック史上燦然と輝く超名盤である称号に疑いの余地はない。

 テープの回転数を落とした弔いの鐘の音が、寒気がするほど不気味に幕を開けるが、
 このアルバムの真の音楽性は、ジョンの偉大なるヴォーカル力にある。 凄すぎるのだ。
 悲鳴から絶叫に至るロック・ヴォーカルのあらゆる音色の違いを、プロデューサーである
 フィル・スペクターの絶妙なサポートもあり、電気的に実に上手く処理されている。
 エコーの掛け方、フィルターのかぶせ方、ダブル・トラッキングにして厚みを持たせて、
 左右のスピーカーから、時には弁証法的に互いに違って聴こえてくるようにするなど、
 狂気とリアリティ(現実味)の表現の限界に挑んでいる感じすら覚える。
 
 そして、バックは必要最小限のアンサンブルに削ぎ落とす、シンプルの極み。
 ジョンのピアノ、ギター、そして、最大の楽器である“声”。
 まるで血流の如く、脈々とラインをなぞるクラウス・フォアマンのベースに、
 まるで鼓動の如く、正確に坦々とリズム刻む、リンゴのドラムのみ。
 (曲によって、たまにビリー・プレストンやフィル・スペクターのピアノが加わるが)

 このシンプル極まりない布陣が、背筋が凍りつくほどの緊迫感を演出して、
 ジョンの“内面からの独白”の重要性を高めて、ロックンロールの本質を限りなく
 追求しているのだ。 現状に対する不安、希望を抱いているこその反発、批判。
 ジョンの“叫び”は、縦ノリ横ノリの激しさ、8ビート重視だけが“ロックンロール”では
 ないということを証明している。

  

 このアルバムは、1曲1曲について語るべきはないだろう。
 その全てがジョンの人生体験の断片であり、真実であるからだ。

 母を失った悲しみを尋常なく叫び、自らを励まし、拠り所だった宗教を痛烈に批判し、
 “悟り”、ディランになり切り、労働者階級の苦痛をグチるように弾き語る。
 孤独に恐怖するも、少年時代を回想し、過ちをきっちり清算させる潔さもある。

 ヨーコへの愛はシンプルかつ深く優しいが、二人の永遠のテーマには、常に、
 “革命と自由と平和”が付きまとう。 ジョンは荒くヘヴィーにギターをラウドさせ、
 「ふむふむ」と頷くんじゃなく、血反吐が出るほど、狂ったように叫び倒すのだ。
 しかし気が付けば、“僕を見て。 僕は誰なの?”とヨーコにもたれ掛かる始末。

 わがままで、幼稚で無垢。 まるで無邪気な子供だ。 
 母に甘えられなかった想いを、ヨーコの胸に顔を埋める様に甘えるのだ。
 そして、ジョンは結論づける。

 「神とは、苦しみを計るための発想にすぎない」と、物怖じなく繰り返し、
 幼いころからの英雄に、諸々の神々、指導者に教祖の名を連呼し、否定していく。
 そして遂には、自らが抱き続けたロックの尊厳に足を踏み入れる。
 言ってはいけなかった。  ある意味での“冒涜”でもあり、最大の自虐行為だ。 
 エルヴィス、ジマーマン(ディランの本名)に、ましてや“ビートルズ”までも・・。
 「夢は終ったんだ」と。  信じる者は、己とヨーコだけなのだと。

 全てを捨てたジョンは、とうとうヨーコと、“ふたりぼっち”になってしまった。
 とどのつまり、ジョンの深い傷は、幼少期の母との辛い別れが根底にあって、
 母ジュリアをヨーコにリンクさせて追い求めている姿が描かれているのだ。

   


 遺作となってしまった「DOUBLE FANTASY」に、“幸福な人間の魂”を感じるなら、
 この「ジョンの魂」には、“どん底の人間の魂”を感じる。  真実のみだ。

 そして、どちらも同じ“ジョン・レノン”という人間の作ったものだということに、
 改めて、彼の偉大さを感じずにはいられない。
 
 最初の方でキツイこと書いてごめんね、ジョン。  
 きっと、ヨーコに嫉妬してんだよ。  男なのにね。
 あんなスゴい男に、こんなに愛されてさぁ・・。

 今日は、30回目の命日。  ずっとブログ書けなかったけど、間に合ってよかった。

 ただ。  今の私の心には、“Imagine”も“Mind Games”も響いてこない。
 愛と平和も・・、 ない。
 響いてくるのは、ロックンローラー、ジョン・レノンの魂の“叫び”のみだ。

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2010/12/08 Wed. 01:25 [edit]

Category: ビートルズ・ソロ

Thread:洋楽CDレビュー  Janre:音楽

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格式高きレーベルの“塀”から抜け出した、晩年の天才。 

      BAND ON THE RUN  PAUL McCARTNEY & WINGS

           

            Band On The Run
            Jet
            Bluebird
            Mrs. Vandebilt
            Let Me Roll It
            Mamunia
            No Words
            Helen Wheels   ※ 米CAPITOL盤収録
            Picasso's Last Words (Drink To Me)
            Ninteteen Hundred And Eighty Five

 今宵は、1年ぶりにポールの話をしましょう。  またまた、ガッツリと参ります。

 以前の記事で、2007年にポールがビートルズ時代から44年もの長年に渡り在籍していた
 EMI、キャピトル系グループから、ユニバーサル傘下でスターバックスが出資参加していた
 新興レーベル 「Hear Music」に移籍し、アルバム「MEMORY ALMOST FULL」をリリースした
 話題をしましたが・・、

 ここにきて、ポールの作品を管理する音楽会社「MPL」と、独立系レコード会社である
 Concord Music Group(ユニバーサル傘下のジャズ系レーベル)が、ポールのこれまでに
 リリースしたソロ作品全て(ウィングスも含む)の配給権を EMIグループから、
 Concord Music Groupに、完全移籍すると正式発表した。

 ということは、現在EMIグループより、リリースされているポールのソロ作品は全て廃盤となり、
 今後は、Concord Music Groupより新装・再発売されることになる。

 このConcord Music Groupへのカタログ完全移籍は、ポールのEMIとの完全な決別だ。
 ポールは今年2月に「McCARTNEY」から「CHAOS AND CREATION IN THE BACKYARD」
 までの配給権をすべてEMIから買い戻してるけど、ビートルズの配給権はそのままEMIに残る。
 今後配給予定のカタログ内容はこうだ。

    

● Paul McCartney    
 McCARTNEY (1970)
 RAM (1971)
 McCARTNEY II (1980)
 TUG OF WAR (1982)
 PIPES OF PEACE (1983)
 GIVE MY REGARDS TO BROAD STREETS (1984)
 PRESS TO PLAY (1986)
 FLOWERS IN THE DIRT (1989)
 OFF THE GROUND (1993)
 FIAMING PIE (1997)
 DRIVING RAIN (2001)
 CHAOS AND CREATION IN THE BACKYARD (2005)
 MEMORY ALMOST FULL (2007)
 GOOD EVENING NEW YORK CITY (2010)

● WINGS
 WILDLIFE (1971)
 RED ROSE SPEEDWAY (1973)
 BAND ON THE RUN (1973)
 VENUS AND MARS (1975)
 WINGS AT THE SPEED OF SOUND (1976) 
 WINGS OVER AMERICA (1976)
 LONDON TOWN (1978)
 BACK TO THE EGG (1979)

 その他で、
 Percy “Thrills” Thrillington (1977)、 THE FIREMANの作品。
 シングルでリリースした楽曲。 (ベスト盤等のリリースは未定)

 おや? 抜けてるアルバムがあるなぁ。 特にライブ盤がごっそり抜けてる。
 晩年の活躍、ライブ活動復活の火付け役となった「TRIPPING THE LIVE FANTASTIC」に、
 「PAUL IS LIVE」に、「BACK IN THE US 2002」も。 「UNPULGGED(公式海賊盤)」に、
 往年のリバプール魂が復活した「RUN DEVILS RUN」までも除外されてる。
 (対になる、ソ連向けロックンロール・アルバム「CHOBA B CCCP」も当然除外に)

 ・・・。 う~ん。 でも、なんかちょっと寂しいなぁ。
 最近のEMIのプロモーションや運営方針に疑念を抱いてたポールが決めたんだから、
 仕方ないんだけど、なんか一抹の寂しさを感じてしまうのは、私だけかなぁ。

 今の若者は、ダウンロードで音楽を買う人が増えている(ほとんど?)んで、
 どこの会社やレーベルから発売されようが、全く気にしないのでしょうが、
 レコードやCDで音楽を買うのが当たり前だった私たちや先輩の方々にとっては、
 私の気持ちが、少しでも分かってもらえるんじゃないかなと思います。

 ビートルズから、英国EMIの伝統レーベル“Parlophone(パーロフォン)”を真っ先に
 引き継いだのはポールでした。 本来、真のポール・マニアは、英国パーロフォンで
 カタログ所持するのが筋ってもんです。 (英米日と所持するツワモノも多いかと)
 でも、こういったマニア魂ってものも、もう古いんですかねぇ。
 そんな格式の高いレーベルにも、全くこだわりをみせない還暦を優に超えたポールの方が、
 私らの考え方よりも若いし、これからも新しいものを生み出そうとしてる。  
 
 これぞ“ロックの偉人”たる所以。  エライんです、ポールは。

 ただポールの作品は、他のビートルらの作品より、リマスターについては遅れていた。
 EMIによって、ビートルズの本マスター音源が厳格に管理されていた事実と比べると、
 ポールのアルバムの(特に初期の)音質とバランスの悪さ、音圧の脆弱さは明らかだ。
 (その雰囲気が、逆にホームメイド的で親しみやすかった“味”でもあったんだけど)
 それだけに、一刻も早いリマスタリングが必要だっただけに、待望の再発となる。
 (ベスト盤「WINGSPAN」では、リマスタリングが施されたが、各アルバム単位では、
  なぜか現在に至るまで全く手つかずの状態だった)
 
 今回のカタログ移籍に伴い、ポールの過去の作品が順次再発されていくことになる。
 が。・・
 まず第1弾として、8月31日に「BAND ON THE RUN」が最新リマスターされ、
 マルチ・ディスク盤にレアなボーナス・コンテンツやスペシャル・パッケージなどを
 満載したデラックス盤にて、何パターンかのフォーマットでリリースが予定されていたが、
 なぜか発売中止になってしまいます。
 (ところが、ここにきて、11月2日にめでたく再発されることが決定した模様!)

      

 「BAND ON THE RUN」は、ポールのソロ・キャリアの中でも最高傑作だと言われてる。
 新生リマスターの第1弾に、堂々単独リリースするわけなんで、ポール本人も
 ソロ・キャリアを代表する、相当の自信作であったことが伺える。
 
 思うに、アルバムの完成度の高さというのは、収録されてる曲の良さはもちろん、
 コンセプトやトータル性、ジャケット・アート等も含めて評価する基準だろう。

 しかし、ポールの場合は、ちょっと並のアーチストとは少し次元が違ってて。
 そのアルバムに、どれだけ“良い曲”が収められたかが最も重要なことで、
 いわゆる「RAM」や「TUG OF WAR」、「FLOWERS IN THE DIRT」のように、楽曲は、
 比較的小粒でも、キラリと光る曲群を随所にちりばめてることで、“名盤”として
 成立させてしまう絶対的説得力を持っている。
 (逆に「RED ROSE」の“My Love”や、「SPEED OF SOUND」の“Silly Love Song”
  など、大ヒット曲を収録してるせいで、統一感を損ねてるアルバムもある)

 このアルバムもそう。 この「BAND ON THE RUN」の完成度の高さは、
 曲は小粒の集まりでも、各楽曲クオリティが際立って高いことにある。

 73年7月、イギリス・ツアーを大成功させて、自信を深め、勢いに乗るポールは、
 すぐさま、次のアルバムの準備にとりかかる。
 「次は、いつもと違うところでレコーディングしてみたい」
 この思いつきから、ボンベイ、リオ、北京、ラゴスなどが候補地に挙がる。

 そこで、ポールの頭に浮かんだのは、「アフリカ音楽のリズムと休暇」だった。
 で、ナイジェリアのラゴスと即座に決定する。
 (早くからアフリカ音楽を取り入れていた、ジンジャー・ベイカーの助言も
  あったそうだ)

 しかし、最初の災難が訪れる。
 ギタリストのヘンリー・マカロックが、新曲のリハーサルの最中に、そのフレーズに
 ついて、どうしても弾きたくないということで、ポールと口論になってしまう。
 そのまま出て行ったヘンリーは、電話でウィングスを辞めると言ってしまう。
 しかも、ラゴスに出発する前日に、ドラムのデニー・シーウェルが、
 「やっぱりラゴスには行きたくない。 嫌だ」と、ドタキャンしてしまう。

 結局ラゴスに向かったのは、ポール、リンダ、デニー・レインの3人だけだった。

    

 出鼻をくじかれたウィングスの面々に、さらなる災難が訪れる。

 8月のラゴスは、雨季のド真ん中で、暑くてジメジメした気候に加えて、
 EMIのスタジオは未完成だったので、音響設備やブースを整えなきゃいけないわ。
 インフラが不完全なんで、排水設備は最悪な上、足元はドロドロでズブズブ。
 さらには強盗に襲われ、金目のものはおろか、デモテープまでゴッソリ盗まれるわ。
 (ポールは、一曲一曲思い出しながら、すべて書き直したという)
 フェラ・クティに「お前ら、アフリカ音楽を盗みに来たんだろう!」と誤解されて、
 スタジオまで抗議に来るわで、(セッション・テープを聴かせて、納得させたそう)
 まさに、踏んだり蹴ったりで、終いには、過労がたたって、ポールがスタジオで
 呼吸困難で倒れる始末に。

 そんな何から何までマイナスだらけの受難作であったにも関わらず、ポールは、
 それを、"マイナスイオン"のごとく、プラスに転じてしまうのだ。
 ドラムスが辞めたって、「待てよ。 僕はドラムを叩くのが大好きなんじゃないか」、
 (このアルバムのドラムを聴いた、THE WHOのキース・ムーンが、
  「このドラムは誰が叩いてるんだい?」と唸ったという有名な話があるくらい)
 「あの2人が、辞めて後悔させるような、素晴らしいアルバムを作ろう」と、
 ポール天性の音楽センスと、いい意味での開き直りと“鈍感力”が生み出した
 躍動感溢れる、多彩な素晴らしき“マッカートニー・ミュージック”。
 これが、「BAND ON THE RUN」だ。


 もともとは、ビートルズ時代に、あるアップルの会議でのジョージの発言に
 インスパイアされたと語ってる。  よほど窮屈だったんでしょうね。
 「If I Ever Get Out Of Here (ここを出られたらの話だけど・・)」

 “Band On The Run”は、ポールお得意のメドレー風テーマパークだ。
 詩は、塀の中の一団が脱獄して逃走するという内容で、これについては、
 “ポール自身が、ビートルズの呪縛から逃れること”の比喩(?)なのか、
 異なった2~3曲が組曲形式に、詩の表現とサウンドが高次元でシンクロさせて
 コンパクトにまとめる仕上がりは、極めて完成度が高い。

 気だるいムーグ・シンセサイザーとギターのサウンドが支配するスローな
 前半部から、静かに曲が始まり、塀の中の人間の視点で情景が簡潔に唄われる。
 ここから急にガラリと様相が変わり、やや閉塞感の漂うマイナー調のサウンドを
 バックに、囚人たちの脱出願望が語られ、そして最後に強引なアレンジで
 アコギの軽妙な音色が入って、陽気に逃亡する一団の様子に展開する曲構成だ。

   

 “Jet”は、強烈なポール流ブラス・ドライブ・チューン。  コレ、最高。
 イントロでガツン! ブースターの効いたベースに、カッティングのシビれる
 カッコよさといい、ポールの乾いたドラムのドタバタ感も曲に拍車をかける。
 リンダの超ヘタウマな「ヒョロヒョロ」としたシンセ・ソロも味があっていい。
 最近のポールのライヴでの“ビートルズ楽曲占有率”が、ますます高まる中にあって
 いまだに、早いタイミングでのアップ・ポジションを守り続けている、ある意味
 ウィングス最重要曲だ。

 “Bluebird”は、ポールお得意のアコギを使ったスロー・メロウだけど、
 決して甘すぎず、このリラックスしたクールダウンのタイミングもいい。 
 あの“Blackbird”の二番煎じなんて言わせません。 
 温か味溢れる間奏のハウィー・ケイシーのサックスとコーラスの絡みなんか、
 聴いていて、心にポッと灯がともるような感じがする。
 私は、このテイクより、「OVER AMERICA」のアコースティック・セットでの
 トリプル・アンサンブルの方が好き。

 “Let Me Roll It”は、ジョンとスペクターが「ジョンの魂」で開発した
 バスタイル・エコー・ボーカルを意識した、ジョンへの和解を求める
 ブルースくさい辛口ナンバー。 ポール版“Yer Blues”といったところか。 
 コードの変わらない鋭いリフを延々繰り返すだけのシンプルなバックに、メロディの
 起伏と、らしくない“こぶし”の入り具合は、ジョンに対抗しまくってるけど。
 たぶんこの曲はジョンが歌った方が、もっと“生きていた”曲になったと思うが。

        

 有名じゃない収録曲だって、粒ぞろいだ。
 “Mrs. Vandebilt”での、「ホッ ヘホッ♪」 という掛け声とリズム・パターンや、
 “Mamunia”では、まるで大草原の真ん中でほのぼのハモってるような雰囲気など、
 ラゴスでレコーディングしただけに、アフリカ民族音楽の影響も受けている。

 “No Words”はブルーアイドソウルっぽい小曲だが、デニー・レインと共作の隠れ名曲。
 何となく、ジョージっぽく聴こえる穏やかなナンバーだが、コロコロ転調するライン、
 ファルセットの使い方やエンディングのギター・ソロは、ポールならではの味。
 あのトニー・ヴィスコンティの流麗なストリングス・アレンジも光っている。

       

 “Picasso's Last Words(ピカソの遺言)”や、ラストの“西暦1985年”では、
 ダイナミックな曲想といい、緊張感溢れるサウンドに、これまで登場した楽曲のメロディ
 を再登場させて、アルバムとしてのトータル性、構築性を魅せてるけど、私としては、
 トゥー・マッチかなぁ。 (まぁ、これもポールの癖みたいなもんですから)
 でも最後の大ラストで、頭の“Band On The Run”に回帰する展開は、アイデア勝ち。


 “ポピュラー音楽”として、質の高い作品を作りながらも、その音楽面を純粋に
 評価されず、常に重箱の隅をつつくように、些末なことでバッシングされてきた
 当時のポールの心境は、いかばかりだったのだろうか。

 本来なら、盟友であるべきジョンからもソロ活動に批判的な態度を取られていた
 ポールのストレスや心労には、察するに余りある。
 (常人なら神経衰弱に陥るか、逃げるように引退するかのどちらかだと思う)
 しかし、ポールのミュージシャンとしての情熱は、止まることを知らなかった。

 プレスや批評家に噛み付かれても、それをバネに精力的に活動し、その結果、
 セールスも伸ばし、それ故に、さらにプレスから噛み付かれ、叩かれながらも、
 ポールは創作活動を辞めず、進み続けた。  だから、エラいんです。
 (終いには、批評家たちの批判も、ほとんど“言いがかり”の様相を呈していた)

 この姿勢には、表では批判的立場だったあのジョンでも、心では尊敬していたはず。 
 ジョンは、当時ポールほど“成功”してませんでしたから。
 (この73年くらいから、この2人のバイオ曲線がクロスするんですよ。
  今後、ポールはどんどん上昇。 ジョンはだんだん下降していく。 )

 そんな不当な評価をねじ伏せてしまったのが、この「BAND ON THE RUN」だった。
 ポールに罵声を浴びせていた者たちを、屈伏させるだけのクオリティに彩られる
 「音楽に対する愛情」というより他ない、“気力”によって作り上げられた
 難産の末の産物だった。

 このアルバムを契機に、音楽業界のポールに対する評価は完全に覆ることになる。
 そして、ここからポールの“逆襲”が始まり、WINGS は全盛期を迎えて、
 大きく羽ばたいていくのだ。

2010/08/28 Sat. 22:44 [edit]

Category: ビートルズ・ソロ

Thread:洋楽CDレビュー  Janre:音楽

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才能豊かな友達の助けを、“いっぱい”借りて。 

     PHOTOGRAPH (THE VERY BEST)    RINGO STARR

            

             Photograph
             It Don’t Come Easy
             You’re Sixteen
              (You’re Beautiful And You’re Mine)
             Back Off Boogaloo
             I’m The Greatest
             Oh My My
             Only You (And You Alone)
             Beaucoups Of Blues
             Early 1970
             Snookeroo
             The No-No Song
             (It’s All Down To) Goodnight Vienna
             Hey Baby
             A Dose Of Rock ’N’ Roll
             Weight Of The World
             King Of Broken Hearts
             Never Without You
             Act Naturally (duet with Buck Owens)
             Wrack My Brain
             Fading In And Fading Out


 しばらくでございます。  実は先週、体調を崩してしまいまして・・。
 おまけに、PCの不具合もありまして、 記事も“固まった”状態でしたが、
 ようやく、体も戻ってきたり、環境も整ったので、またポツポツと進めて参ります。


 さて年も明け、昨年のビートルズ・リマスター騒動(私はそう呼んでます)から、
 時間も経つにつれ、ずいぶん落ち着いた感があるように思います。

 が。  当の“生きるビートル”2人は、どうしてるのかといいますと・・。
 隠居なんて言葉は、いやはや、この2人の辞書には全くありません。
 ベテランなどという域を遥かに超えた、“伝説”であるにも関わらず、精力的に
 現役ミュージシャンとして活動しています。  嬉しいじゃありませんか。

 まずポールは、昨年7月にニューヨークで行われた最新ライブを11月に緊急リリース
 して、健在ぶりをアピール。  エラい人ですよ、ほんと。  この底のない
 エンターテイナーぶり、“オーディエンス至上主義”のミュージシャン・シップは
 ほんと頭が下がります。 素晴らしい。 ブラボー。 気持ちの“入り”が全然違う。
 今のバンド・メンバーになって、間違いなく最高の出来。 まだまだ“できる”。
 また機会を設けて、しっかりレビューしなくては。

    

 そして、リンゴも、今月なんと2年ぶりのニュー・アルバム「Y Not」を発表。
 (実は、コレを書いてる段階では、まだ未聴なんですが・・。)
 今回は初のセルフ・プロデュース。 そして、またまた彼の人柄に魅せられた豪華な
 ゲストが今回もたくさん参加してくれて、リンゴを盛りたてて、引き立てる。 
 しかも、98年の「ヴァーティカル・マン」以来となる、ポールも参加して、
 デュエツトしたり、ベースまで弾いてくれたりと、これまたニンマリしてしまう。

 本名・リチャード・スターキー。  芸名・リンゴ・スター。
 ビートルズ加入前に在籍してたロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズ時代、メンバーが
 アダ名で呼び合ってた時、指輪(Ring)を4つも付けてた彼を「Rings」って呼んでて、
 それが、なまって「Ringo」に、でも、リンゴ・スターキーじゃ、長ったらしいんで、
 半分に縮め、Rを付けて、「リンゴ・スター」に。

    

 今回は、他の3人よりも、ずいぶんレビューが遅くなってしまったけど、
 (ごめんよ、リンゴ)
 “偉大なる天才ドラマー、かつ、稀代の天然シンガー”である、
 第4のビートル、リンゴ・スターの話でございます。 よろしくお付き合いを。


 私は、ある人にこう言ったことがある。
 「ビートルズは、3人の天才と1人の優れた才能を持った男の音楽集団だ」って。

 3人の天才っていうのは、“あの2人”と、もう1人は“リンゴ”のことです。
 (ジョージは天才じゃありません。 彼は優れた才能を持って生まれ、あの2人の
  天才のもとに隠れ、その能力を温め、努力して、最後には見事に大開花させた人。)
 「えっ、リンゴが天才?」 そう思う方も多いと思いますが、 
 これは、彼の天性のドラミング・センスが、タダものではないということ。

 歌なんか、正直、そんなにうまくない。 いや、音痴とヘタウマのギリギリの
 ラインを狙ってるっていうか・・。 いやはや、オンリー・ワンだ。
 あの“Yellow Submarine”や、“With A Little Help For My Friends”
 なんて、書いたあの2人が歌っても、“あの味”は出ない。 リンゴだけだ。
 (例のリマスター盤を高く評価してる私ですが、ダメな曲だってありました。
  リンゴの“美声”が最高に癒してくれる“Good Night”だけど、あれはダメ。
  リマスターで、ストリングスとコーラスがクリアになったのはいいんだけど、
  中盤以降、リンゴの声が埋没してしまう結果に。 MONOはもっとダメ。   )
 音楽的才能も、う~ん・・なんだけど・・。 まぁ、ご愛嬌よろしく。

 しかし、天才ですよ。 彼が叩いてなきゃ、あのビートルズ独特のグルーヴ感は絶対
 生み出されていない。 そして、真似できない魅力があるんですよ、リンゴには。

 まず、リンゴのドラミングは“前に出過ぎず、後ろに下がり過ぎず”曲の良さを
 引き立てる的確なサポートが基本。 (手数が多くて“オカズ”の多い派手さはない)
 初期から「LET IT BE」以前まで、一貫してシンプルな「ラディック」のジャズ・
 セットモデルを愛用。 初期から中期は皮をピンと張ったハイ・チューニングの
 跳ねる音。 (ノリと勢いに任せて、走ったりモタったりと、まぁ大騒ぎなこと)
 後期は緩めに張って、深みの出るロー・チューニングの重厚な音へと変化していく。
 
 この当時多かったジャズドラマーや鼓笛隊のようにスティックを逆手持ちせず、
 手の甲を上に向けて叩く。 初期から中期のロック調の曲ではハイハット半開きの
 往復ビンタ攻撃が得意技。 (イチローじゃないけど、振り子打法の原理です)
 手首のスナップをフルに効かせています。 これが独特なグルーヴを生み出すんです。
 (ノってくると、髪を振り乱して叩くんだけど、なぜかうるさくならない。 
  軽やか。)

 ドラムやってる人なら、わかると思うんですが、
 コレ、なかなか練習しても身に着くものじゃない。 
 持って生まれたセンスなんだろう。

    

 またリンゴは、実は左利き。 でも、右利き用のドラムのセットで叩いてるんです。
 だから、通常のドラム・アクセントにはならないような感じもわかる。
 元来シャッフル・ビートが上手いんで、ロック的な8ビートを要求しても、
 どこかシャッフル気味なドラミングになってしまうことが、ビートルズのサウンドの
 特長にもなってる。

 例えば、“Something”のイントロのフィルインなんかそう。
 この曲では、ポールのベースが絶賛されるけど、これは、“黄金のバッテリー”だ。
 ポールのベースとリンゴのドラムとの濃厚なデュエット。 この2人しかできない。 
 (この2人のベスト・ヘヴィー・グルーヴは、“Rain”。 やっぱ、これだろう。)
 ジョージが泣くように、「♪I Don't Know~。 I Don't Know~。」と歌った
 直後の下降フレーズの絡みとこなんか、円熟の域だ。

 また、彼は太鼓の「1音」の温かみというか、深みというか、そういう味を持った
 ドラマーでもある。 (ジョンの“Mother”での1音1音刻まれるスネアの見事なこと)

 ビートルズって、どんなにアヴァンギャルドにぶちキレても、
 どこか人なつっこい響きがするのは、このリンゴのドラムのおかげなんじゃないかぁ。

 「あの3人とは、みんないい友達さ。」
 「僕の曲なんて、アルバムに最低1曲入ってればOKさ。」
 「人気投票だったら、他の3人には敵わないけど、
  2番目に好きなメンバーは誰って投票なら、1番になれるよ。」
 こんな彼の発言にある通り、リンゴの人柄がにじみ出てるコメントばかりだ。

 この絶妙なポジション取りというか、自分をよく解ってるっていうか、
 「徳」を持ってんですよ。  これも、“天性”の驚くべき才能だ。
 だから、「ねぇ、ちょっと助けてくれないかなぁ・・。」なんて言うと、おいこらと
 ばかりに、なぜかどんどん友達が集まってくる。  何もしなくても。

 ソロ・アルバムを作るとなれば、作曲から演奏、コーラス、プロデュースと、
 錚々たるミュージシャンが次から次へ、名を連ねる。 今日までに、
 元同僚の3人、エリック・クラプトン、ドクター・ジョン、ボブ・ディラン、
 ザ・バンドの面々、ビリー・プレストン、エルトン・ジョン、マーク・ボラン、
 ブライアン・ウィルソン、ハリー・ニルソン、デヴィッド・フォスター、
 ジェフ・リン(ELO)、オジー・オズボーン、ジョー・ウォルシュ(イーグルス)
 などなど・・。 これは、ほんのごく一部。 あまりに幅広い交友関係だ。  
 ジャンルや国を問わず、あり得ないメンツばかりが、ズラリを顔を揃える。

 シーンにカムバックした89年から、オールスター・バンドを構成してツアーを敢行。
 現在に至るまでに、その都度、豪華なメンバーを入れ替えて、続けられてる。

 みんな、リンゴが大好き。  みんなが、助けてくれるんです。

 これは、リンゴ初のオールタイムのベスト盤。 
 ビートルズ解散後、CAPITOL(Apple)からリリースしていたが、
 (アナログ時代のベスト盤「BLAST FROM YOUR PAST」以降、Appleを離れる)
 その後、アトランティック、マーキュリー、ボードウォーク、THE RIGHT STUFF
 など、(RING‐Oなんて、自身のレーベルも設立したこともあったけど、大失敗)
 鳴かず飛ばずだった70年代後半から80年代は、様々なレーベルを渡り歩いていただけに
 音源が四方八方に散乱していたけど、今回は、そのレーベルを越えたオールタイムな
 ベスト盤となっただけに、それだけでも、とても意義がある内容。

       

 CAPTOL時代の“It Don't Come Easy(明日への願い)”、“Photogragh”や、
 “Back Off Boogaloo”、“You're Sixteen”などといった大ヒット曲から、
 近代になる90年代から現在に至るまで、コンスタントに選曲された、
 ヒストリー的ベスト盤だ。
 (ただあまりに凋落の激しかった80年代からは、81年にギリギリTOP40ヒットになった
  “Wrack My Brain”だけとは寂しいなぁ・・。 いい曲けっこうあったんだけど。)

 ただ紛れもなく、リンゴは“ビートルズ”の一員。
 他の3人と同様に、彼の残した音源は、貴重であるし、もっと大事にしないと。

            

 私が、一番好きなのは、やっぱ“It Don't Come Easy(明日への願い)”。
 70年2月に「SENTIMENTAL JOURNEY」制作時に録音されたが、オクラ入りに。
 その後、71年4月に、英米共に4位の大ヒットを記録した、リンゴの出世作がコレ。
 この曲って、リンゴ作だけあって、全然コード展開しないんだけど、ジョージの絶妙な
 アレンジとセンスでもって、良質なポップ・ソングに仕上げたのは、さすが。
 CS&Nのスティーヴン・スティルスがピアノで参加し、ハンブルグ時代の親友で
 名ベーシスト兼画家のクラウス・フォアマンがベース。
 (あの「REVOLVER」のジャケットを書いたのは彼)
 そして、あの“My Sweet Lord”にも登場させるバッド・フィンガー率いる
 「ハレ・クリシュナ隊」がバック・コーラスで、リンゴをしっかりサポート。
 ジョージとしたら、「ALL THINGS MUST PASS」の“練習台”としては、
 上々の出来だろう。

 また続く、ジョージがプロデュースしたファンキーな“Back Off Boogaloo”は
 “のほほん”としたリンゴの楽曲の中でも、スリリングな展開が魅力。 
 ジョージのスライドが縦横無尽に唸り、リンゴも珍しくドタバタとスネアを歪ませ、
 フォアマンのベースも固くゴンゴンと刻んで、もの凄いヘヴィー・グルーヴを生む。

         

 そして、ド派手なイルミネーションで自分の名前をタイトルにした、まさに、
 リンゴ版「ザッツ・エンターテインメント」であり、かつ、リンゴの最高傑作である
 「RINGO」のオープニングでもあった、ジョン作の“I'm The Greatest”だ。
 「俺様は、偉大なる人物である」と、“豪語”できるというか、ハッタリかませるのは
 リンゴだから。 (ジョンが、もしこの曲を歌ったもんなら、何を言われるか・・。)
 この曲は、「“ポール”レス・ビートルズ」。 ポールに言わせたら、“3 Legs”。
 「3本足の犬なんて、歩けっこないよ」って曲にしてるくらいだけど、いやいや、
 ジョンが、ピアノとハモリでアクセントを加え、ジョージが決めのフレーズを入れる。
 “彼”の代わりに、ビリー・プレストン(Org)と、フォアマンがベースに加わり、
 リンゴにしたら、少々辛めの切れ味鋭い、屈折ポップに。 これは、かっこいい。 

 しかし、ポールも、この「RINGO」では、“You're Sixteen”では、ひょうきんに、
 バック・コーラスに参加。 のんびりとしたポールらしい“Six O'clock”を提供。
 あの近親憎悪ともいえる、お家騒動や罵り合いの真っ最中に、この「RINGO」では、
 リンゴの音頭取り一つで、全員が同じスタジオで演奏こそなかったものの、
 あの“FAB 4”が勢ぞろい。 アルバムに「ビートルズ」が共存しているのだ。

 この事実だけでも、リンゴの役割、位置取り、キャラクターがわかる。

 先の“It Don't Come Easy”のB面だった、“Early 1970”は、“あの3人”について
 その微妙な距離感と、自分の率直な気持ちを綴った歌だ。 
 

   農場に住んでて、愛嬌もたっぷり。
   牛は飼ってないけど、羊はいっぱい飼ってるんだ。
   新しい奥さんと家族に囲まれてる。
   そして、彼がこの街にやってきたら、
   僕と一緒にプレイしてくれるのかなぁ・・。

   ベッドに横たわって、テレビばっか見てる、
   クッキーと彼女をそばに、はべらせてさ。
   彼女は日本人さ。 大声で叫んだかと思ったら、
   もう彼らは自由の身なんだ。
   そして、彼がこの街にやってきたら、
   僕と一緒にプレイしてくれるに決まってるのさ。

   彼は、内股で髪の長いギタリストさ。
   脚の長い彼女は、雛菊を庭で摘んでスープに入れるんだ。
   40エーカーもある家で、彼を見ることなんてないんだ。
   なぜなら、彼はいつでも僕と一緒にプレイしてるからさ。

   そして、僕が街に行ったら、3人みんなで会いたいなぁ・・。


 当時、この曲を聴いて、心を痛めていた、世界中のビートルズ・ファンは、
 どれだけ、救われたことでしょう。 癒されたことでしょう。
 
 

 やっぱ、「リンゴはリンゴ」だ。  
 たぶん、リンゴの作品をまとも(?)に聴いているのは、99%ビートルズ・ファン
 だと思うけど、、けっして、リンゴに傑作を求めるファンはいないのでは・・。
 悪い意味ではありません。 聴いていて、心地良ければそれでいい。

 盛り上がってくる、ノッテくる、アドレナリンが出まくってくる雰囲気を
 一気にクールダウンさせる、生ぬる~い、負のパワー。 
 良くも悪くも、マイナスイオン出しまくりの存在感。
 ビートルズの張り詰めた、研ぎ澄まされた緊張感には、最高の中和剤。
 これが、リンゴの真骨頂。

 ビートルズ時代から、リンゴの曲を聴いた後に、
 「人と争いたくなりますか? ケンカしたくなりますか?」と言いたくなる。

 落ち目だった70年代後半以降からは、日本のCMにも、たくさん出てた。
 大昔に何のCMかは忘れちゃったけど、UFOから宇宙服来て降りて出てきたり、
 炭酸飲料とか、チュウハイのやつだと、「リンゴ、擦ったぁ~」って・・。
 笑顔でニッコリ。(失笑よりも、ちょっと悲しかった記憶があるけど)
 リンゴは、仕事も選びません。

 人徳は強し。 究極の癒しキャラ。 みんなが、ニコニコしていられる。
 だから、リンゴの元にはいつも一流のミュージシャンが揃うのだ。

 「♪僕がキーをはずして歌ったら、君はどう思うのかな。
   音程をはずさないように、精一杯頑張って歌うよ。
   僕には、友達が助けてくれるから、うまく歌えるし、楽しく歌えるんだ。」

 20代そこそこで、「最高の友達たち」が、この曲をリンゴにプレゼントしてくれた。
 これが、まるで予言していたかのように、今後の彼の音楽人生を
 そのまま物語るなんて・・。

2010/01/31 Sun. 10:19 [edit]

Category: ビートルズ・ソロ

Thread:洋楽CDレビュー  Janre:音楽

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“音の壁”の内なる小宇宙。(後編) 

    ALL THINGS MUST PASS    GEORGE HARRISON

         

    (NEW CENTURY EDITION -Degital Remastering-)

            ~ ADDITIONAL TRACKS ~
          I Live For You
          Beware Of Darkness (Demo)
          Let It Down (Demo)
          What Is Life (Backing Track)
          My Sweet Lord (2000)

 前編に続きまして、後編に参ります。  引き続き、お付き合いよろしく。

 オリジナル・アナログ盤の1枚目で、正直“お腹いっぱい”なのに、
 2枚目、いや、3枚目があるんです。 “実質”の初ソロ・アルバムなのに、
 (ジョンが、「あいつ、頭がおかしくなっちまったんじゃないか」と皮肉たっぷり)
 遠慮がありません。 あの控えめだった“第3の男”は、どこに行ったんでしょ。
                   
 2枚目は、“Beware Of Darkness”で始まる。 「暗闇に気を付けろ」と、
 ジョージの宗教的警句で追い込まれるも、幻想的でスケールの広い曲に。
 特に、バングラデシュ難民救済コンサートでのレオン・ラッセルとの、
 デュエットが印象的だった。 (このアルバムにはワケあり不参加?)
 ジョージ追悼コンサートでのクラプトンも素晴らしい名演でした。
 結局ヴォーカルもギターも、“ジョージ”であって、双方のヘロヘロ感が
 相互作用しあって、何とも言えない気持良い浮遊感を生み出してる。

 ディランとの共作やカヴァーがありながら、それ以上にディラン・サウンドなのが、
 “Apple Scruffs”。 グルーピーのことを歌った、もちろんジョージ作。
 アコギのストロークと荒削りなハーモニカが、やけに耳に残る。 
 ただし、サビのメロディーはジョージ以外作らないような、変なライン。
 ヘタクソなんだか、どうもわかんないハーモニカは誰なんだろう? 
 まさか、ディランではあるまいし。  正解は、ジョージ本人。 
 ホルダー付けて吹いてる様子。 ディランの真似でもしたのかな。

 “Ballad Of Sir Frankie Crisp (Let It Roll)”は、スペクターが、
 「歌詞を変えればヒットする」と言ったらしいが、それもうなずける。
 何しろスペクターの言う通り、地味だけど親しみやすく、いい曲なのだ。
 オルガンとペダルを壁に貼り、ジム・ケルトナーとおぼしき控えめなドラムや、
 アコギのバッキング、そして、スライドが効果的。 (泣きのメロディも)
 こういうのは、いじらないほうがいい。 スペクター、こいつ解ってる奴なんだ。 

 しかし、“Awaiting On You All”では、再び、大ウォール・オブ・サウンド大会。
 曲そのものはストレートなロックン・ロールだけど、たった2分半の間に、
 もの凄い勢いで音が埋め込まれている。“Wah‐Wah”のレベルじゃないくらい。
 ドラムも大量に、更にパーカッション。ホーン、コーラス、キーボード類、ギター、
 全てがエコーの波に飲み込まれた挙げ句に、あっという間に終わってしまう。
 この短さが生命線。 これ以上は、コテコテすぎて、くどくなっちゃうから。

 そして、この面は、タイトル曲“All Things Must Pass”で締めくくられる。
 ビートルズ時代、「GET BACK セッション」でリハーサルされていた曲で、何度も
 録り直しても完成出来なかった曲が、“友達”の助けによって陽の目を見ることに。
 今では「ANTHOLOGY 3」で聴けるけど、いまだにボツにした理由がわからない。
 ここでもリンゴがドラム。 ストリングスやホーンは控えめで、(かつ印象に残る)
 アコギとピアノ中心のシンプルなサウンドに仕上げている。 真の名曲だ。
 ジョージのツボを押さえたスライドもいいし、ピートのペダルも涼しげに、
 エンディング付近のベースのフィル・イン(たぶんクラウス)がまた効いている。
 (ジョージ追悼コンサートで、ポールがこの曲を歌ってくれていた。 泣けたなぁ。
  この曲をボツにした“犯人”とおぼしき「きみ」が歌ってる・・。 
  実に感慨深い・・。)

      

 またまた裏返して、“I Dig Love”からのスタート。
 ジョージ流屈折ソウルか。 他愛もない“プチ・エロソング”っていうかな・・。
 ピアノとエコーのかかりまくったドラムがメインになっている。
 (ピアノは“Something”のアウトテイクで弾かれていたものにも似ている。)
 ドラムはこれまたリンゴ。 ほとんどシンバル類を使わないお得意のスタイルで。
 正直、変な曲。 こういうのがいかにもジョージっぽい。

 ビートルズ時代の66年頃の作品という、(アルバムで言うと、「REVOLVER」あたり。
 これをビートルズで聴きたかった。 このドライブ・グルーヴがどう料理したのか。
 いかに、この頃からジョージの才覚が充実し始めたかが分かる。)
 “Art Of Dying”だが、アルバム中、最も強靭なハード・ドライブ・ロック。
 イントロからの強烈なワウ・ペダルはクラプトンで、終始リードして疾走しまくる。
 ドミノスの面々のプレイも追従。 ジョージも必死に追っかける。
 (この曲で、無名時代のフィル・コリンズが、コンガを叩いていたのが有名。)
 これもウォール・オブ・サウンドにコーティングしているが、引っ剥がしてやりたい。

 “Isn't It A Pity (Version 2)”は、“1”よりシンプルなアレンジが特徴。
 2回入れるとはよほどの自信作なんだろうなぁ。 こちらは「音の壁」は控えめで、
 空間を演出するオルガンと隙間を埋めるクラプトンのギターが全体を彩っている。
 後半にはドラムやストリングスも登場するが、よりスペイシーな使い方がされている。

 ジョージとスペクターのヘヴィー・ゴスペル“Hear Me Lord”が、事実上のラスト曲。
 サビの最後の部分のコーラスとリズムチェンジが印象的で、緊張感を曲に与える。
 バランスは小さめだがジョージのスライドが全編に鳴り響く。 ゴスペルでも、
 シンフォニックにアレンジしてることで、宗教臭さが薄められ、まさに大円団。
 ジョージは、神へのご加護を壮大に歌い上げ、この“歌もの”は締めくくられる。

 もうお腹いっぱい以上でしょう。 でも、まだあるんですよ。 3枚目が。

       

 アルバム録音の合間に行われたセッションの様子をまとめた“おまけ”が収録。
 いわゆる、「アップル・ジャム」と呼ばれるものが、3枚目にあたるもの。

 ニュー・センチュリー版では、曲順が変わっているが、オリジナルの順で行くと。
 “Out Of The Blue”は、デレク&ザ・ドミノスに、サックスはボビー・キーズ、
 オルガンにゲイリー・ライト、ギターにジョージを加えてのセッション。
 11分にも及ぶジャムだが、各ソロよりグルーヴを聴かせるほうに集中してプレイ
 している感じだ。 ソロはキーズ→ ライト→ クラプトン→ ジョージ→
 ジョージ&クラプトンと言う順番かな。 

 “It's Johnny's Birthday”はジョージとマル・エヴァンスによる悪ふざけ(?)
 収録日が10月9日だったのかなぁ・・。
 “Plug Me In”もドミノスによる演奏。 ギターにデイヴ・メイスンが加わっている。
 3人のギタリストのバトルをメインに据えたロックンロール・ジャム。
 メインは主にメイスンだが、名ギタリスト達にジョージもしっかりついていってる。

 “I Remember Jeep”は、クラプトンを中心にドラムにジンジャー・ベイカー、
 ベースにクラウス、ピアノがビリー・プレストン、そして随所に聞こえる
 「飛び道具」ムーグを演奏しているのがジョージだ。 エリックとジンジャーの
 コンビネーションはさすがです。

 “Thanks For The Pepperoni”も"Plug Me In"と同じメンバーでのジャム。
 チャック・ベリー風リフから始まるロックンロール・セッションだ。
 デイブ・メイスンの好演が中心だが、単なるチャック・ベリーになりそうな所を
 巧みに外していくジム・ゴードンのシンコペーションしまくったドラムがカッコいい。
       
      

 最後に、ジャケットのカラーを色づけしたニュー・センチュリー版を触れると、
 オリジナル盤より、ノイズが軽減され、格段に収音レベルが上がったために、
 “音の壁”で埋没しがちだったヴォーカルや楽器群の音の分離が良く分かる。
   
 ボーナス・トラックも、ピート・ドレイクのペダル・スティールが素晴らしい
 “I Live For You ”に、“My Sweet Lord”のミレミアム・バージョンが新録音
 されている。 30年という年月が生んだこの深みと熟成された味わい。

 ほとんどの楽器を差し替えていて、ギター、スライドはもとより、シタールなども
 加えられて、インド音楽への深い傾倒が今もなお垣間見える。
 ただ、これには賛否があるでしょう。 枯れてなお、病んでなお。 老いの美学か。
 しかし、あのオリジナルの“ポップスの魔法”は残念ながらここにはない。

 ただひとつ、私にとってはっきり断言できることは、いまだに、このアルバムを、
 平気な顔をして“通り過ぎる”ことはできないということ。 ひょっとしたら、
 一生こだわり続けなくてはならないかもと思う。 それほど重要なアルバムなのだ。
   
 「ALL THINGS MUST PASS」  すべては過ぎ去っていく。 移り変わっていく。

       

 ビートルズ・ファン、いや、ロック/ポップス・ファンのみならず、 
 人生をただ通り過ぎるだけ」ということに疑問を感じている人がいたら、
 一度耳に入れておいててはいかがでしょう。

2009/12/03 Thu. 22:37 [edit]

Category: ビートルズ・ソロ

Thread:洋楽CDレビュー  Janre:音楽

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“音の壁”の内なる小宇宙。(前編) 

     ALL THINGS MUST PASS    GEORGE HARRISON

          

           I'd Have You Anytime
           My Sweet Lord
           Wah‐Wah
           Isn't It A Pity (Version 1)
           What Is Life
           If Not For You
           Behind That Locked Door
           Let It Down
           Run Of The Mill
           Beware Of Darkness
           Apple Scruffs
           Ballad Of Sir Frankie Crisp (Let It Roll)
           Awaiting On You All
           All Things Must Pass
           I Dig Love
           Art Of Dying
           Isn't It A Pity (Version 2)
           Hear Me Lord

             ~ APPLE JAM ~
           Out Of The Blue
           It's Johnny's Birthday
           Plug Me In
           I Remember Jeep
           Thanks For The Pepperoni

 今日11月27日は、ロック史上最高の“第3の男”であるジョージ・ハリスンの
 輝かしき大傑作「ALL THINGS MUST PASS」の発売日なのだ。
 1970年11月27日発売なんで、今年で39年目。 最新リマスターされた、
 ニュー・センチュリー版も、2001年から数えて、8年経った。

 実は、ずいぶん前から何度か書かなきゃと思ってたアルバムでして。 
 やっと書く気になったというか・・。 またまた、今さらなんですが。
 このジョージ永遠の一枚に、よろしくお付き合いのほどを。 
   
 まず、考えてみると・・。 
 私にとっては、いろんな意味で、“時間のかかったアルバム”。
 聴く前から、前評判や予備知識で頭がいっぱいのアルバムだった。
 ゆえに、実はなかなか手が出せなかったアルバムだったんだよなぁ・・。
 (もうこの時点で、時間がかかってますもん)

 「70年代を代表するロックの金字塔」だの、「ジョージの才能が爆発的に開花」
 だの、「ビートルズ解散後、ジョンやポールよりも早く成功したビートル」だの、
 聴きたい欲望と期待を煽る言葉の数々が乱れ飛んでる、このアルバム。

 “My Sweet Lord”と、“What Is Life”くらいは聴いたことがあっても、
 当時、ロック初心者のこの私には、この賛辞の嵐に心は高まるばかり。
 「早く聴きてぇ・・。 いや。 聴かなきゃいけないんだ。」とか、
 自分勝手に使命感まで植えつけちゃって。

 しかし、手が出なかった。  高くて。  

 しっかり装丁された箱に収めた3枚組。 帯には“ロックの金字塔”の文字が。
 確か6000円だった。 (改訂価格前は5000円だったかなぁ)
 「欲しいなぁ・・」  店頭で手にとっては、ため息ばっかついてたっけ・・。
 このアルバムだけは、レンタルで済まそうとの邪心が不思議と起こらなかった。

 ようやく手に入れたのは、彼がクラプトンをバックに従えて、ビートルズ初来日
 以来の、“奇跡”のジャパン・ツアーをした91年の秋くらいだったんで、
 結果的には、「CLOUDNINE」やトラヴェリング・ウィルベリーズよりも後に、
 耳にすることになってしまった。 正直インパクトよりも、なぜかぼんやりとした
 深い魅力に取りつかれたんで、私にはハマるまで時間がかかってしまうことに。

 共同プロデューサーは、“Mr・ウォール・オブ・サウンド”ことフィル・スペクター。
 あの「GET BACK」をリミックスし、「LET IT BE」を作った男だ。
 他のメンバーがソッポを向いたオーヴァーダブの作業に顔を出していたのは
 ジョージだけ。 スペクターの音の構築の仕方に感銘を受けたジョージは、
 その場で、ソロ・アルバムのプロデュースを依頼、快諾を受けている。

      

 ビートルズ中期からの、ジョージの宗教への傾倒、接近には、私自身、
 実のところ、うさんくさい思いを抱いていたんだけど、スペクターによる
 分厚い“音の壁”に、「宗教色」もうまく包み込まれて、摩訶不思議な、
 内なる小宇宙を見事に形成。 第3の男が、ロック史上の大傑作を創ったのだ。

 ジョージを盛り立てるメンツも、凄い奴らが集まった。
 69年末に、デラニー&ボニーのツアーに参加したことがきっかけで、
 ジョージの人柄に魅せられた“友達”がいっぱい集まってくれた。
 エリック・クラプトン、デイヴ・メイスン (ギター) ピート・ドレイク (ペダル)
 クラウス・フォアマン、カール・レイドル (ベース)
 リンゴ・スター、ジム・ゴードン、アラン・ホワイト (ドラムス)
 ビリー・プレストン、ボビー・ホイットロック、ゲイリー・ライト (キーボード)
 ボビー・キーズ (テナー・サックス) バッドフィンガー(アコギとハーモニー)
 などなど、書き切れないほどの英米問わず、様々なメンツが揃った。

 後のデレク&ザ・ドミノスとなるリズム・セクションを核に、当時のアメリカ南部
 の泥臭いロック(スワンプ・ロック)を、偏執的に音を重ね合わせ、分厚い音圧で
 彩られた“ウォール・オブ・サウンド”でコーティングし、壮大なロックの巨像を
 築き上げた。
     
 オリジナルの1枚目のA面は、「起承転結」の言葉が相応しい。

 この大作の頭に、こんな地味な“I'd Have You Anytime ”を持ってきたのは、
 ジョージの自信の現れなんだろう。 (これに気付くのにも時間がかかったが)
 これは、なかなかできない。 A面1曲目はまずインパクトが勝負だからだ。
 順当なら、“My Sweet Lord”や“What Is Life”。 いや、ドライブ・ハードな
 “Art Of Dying”や、もろウォールしてる“Awaiting On You All”でも
 面白かったかもしれない。 でも、ジョージはあえてコレで勝負をかけた。
 ディランとの共作というフロックも、シンプルで素朴なアレンジは、“Something”
 あたりからの流れを汲んで、旅立ちの序曲としては、この上ない曲。

 “My Sweet Lord”は美しすぎる。 素晴らしい。 なんと崇高な曲なんだろう。
 (パクリ問題などナンセンスの極み。ズバリ“He's So Fine”なんかより優れた曲だ)
 バッドフィンガー隊が紡ぐアコギのストロークからドラムとベースが入ってくる
 タイミングは完璧。 エコーのかけ方、響かせ方も、最後の神の名を連呼する
 コーラスも、あくまでポップ。 これはスペクターのアレンジ・センス爆発だろう。
 そしてイントロのスライドだ。 “白い(白人の)スライドギター”はこれで知れ渡った。
 (ジョージの代名詞にもなった) 何と言われようと、この曲はジョージの出世作
 であることは永遠に変わらないのだ。

       

 “Wah‐Wah” は、70年代ウォール・オブ・サウンドの見本のような曲。
 圧倒される“音の壁”から放たれる音の洪水。(ジョージが溺れてる・・)
 左にジョージ、右にクラプトンの強烈なワウ・ペダルを配置する、
 後のデレク&ザ・ドミノスの面々のファンキーなプレイから、全ての音が
 大迫力で雪崩れ込んでくる。 (いったい何本ギターを重ねてるんだろう)
 歌詞では「ワーワー言わないでくれ(わめき散らさないでくれ)」と言ってるのに、
 バックはこれでもかとばかりの「Wah Wah」だ。 もちろん意図的にだ。
 ジョージが歌詞の主人公で、バックが「きみ」ということか。
 あの映画で、「きみ」に弾き方をダメ出しされ、嫌気がさして家に帰っちゃった日、
 その悔しさをぶつけて書き上げたのがこの曲。 ガマンしてたんだね、ジョージ。
   
 アルバム中2回登場する“Isn't It A Pity”の最初のヴァージョンは、
 7分を超える壮大なバラードに仕上がっている。 シンプルなラインの反復を
 ジョン・バーラムの編曲によるオーケストラが覆い尽くす。 これは、トゥー・マッチ。
 しかし、ウォール・オブ・サウンドの効果が強力に現れているナンバーとも言える。
 ドラマティックな構成も、ストリングスはさることながら、ビリー・プレストンに
 「何度も同じことを引かされて退屈だった」と言わせただけある。
 とにかく重ねに重ねたり、よくもトラック数が足りたもんだというサウンドは、
 まさしくアルバム最大のハイライトに相応しい。
   
 よくできてるよなぁ、この見事な曲の流れ。 その余韻のまま、裏返しますと・・。

 ジョージのポップ・センス大炸裂の“What Is Life” は、分厚いブラスが鳴り響く中、
 やたら軽快なバッキング。 そして、線の細いジョージの頼りないヴォーカルが
 なぜかマッチするファンキー・ソング。 元々は、ビリー・プレストン用に書いた曲
 なんで、やけに黒っぽい感じ。 でも、コーラスの展開やレスポンスの盛り上がり
 なんかスペクターとジョージの頭の中には、がっちり計算された音像の青写真が
 あったんじゃないだろうか。 よく出来てるんだ、コレ。
   
        

 “If Not For You ”はディランのカヴァー。 (70年の「NEW MORNING」収録)
 カヴァーと言っても、ジョージはこの曲のディランのオリジナル・ヴァージョンに
 参加していた(当時未発表だったが、ブートレグ・シリーズで陽の目を見る)わけで、
 準オリジナルと考えていいかも。 ジョージのヴァージョンは、オリジナルの
 フォーク・ロック調から、何故かトロピカル方面に振られていて、これが妙に
 和んでいい感じ。 なんかぬるいんだよなぁ~。 クラプトンのドフロもシブい。

 “Behind That Locked Door” は、ディラン復活を題材にした曲だという。
 (ディランは、66年にバイク事故で首の骨折してからの隠居生活から復帰。)
 この曲がディランのカヴァーの次に入っているのは偶然ではないのでは。
 ここでも、トロピカルなアレンジがされているんだけど、
 ピート・ドレイクのペダル・スティールがフューチャーされたカントリー・ワルツ。
 こってりの“音の壁”が続いたあとの、この流れは落ち着いてとても良い。

 “Let It Down” は、スペクターの巨大なるウォール・オブ・サウンドと、
 ジョージらしい落ち着いたサウンドが同居しているダイナミックな展開がミソ。
 ここでのスライドは、ジョージの名演に数えられるべきだ。
 ジョージの音色ってクラプトンにも負けていないと思うんだけど。
 それにしても、ここでの「ビッグ・バンド」は、アルバムの中でも一番物凄い。
   
 B面を締める“Run Of The Mill ”は、ヴォーカルに絡んでくるドラミング
 (おそらくリンゴ)が印象的だ。 短い曲だけど、これも「きみ」に向けた曲。
 しかしジョンに比べたら、とても遠慮がち。 アコギのイントロから、途中の
 変拍子が挿入される曲展開や、ホーンのかぶさり方もいい。 ザ・バンドみたい。
   
 書き出したら、とても収まりきれないんで、後編に続けることにします。
   
 後編は、2枚目と3枚目のアップル・ジャムに、ニュー・センチュリー版のことも
 触れようかなと。 また時間かかりそうだ・・。

2009/11/27 Fri. 21:54 [edit]

Category: ビートルズ・ソロ

Thread:洋楽CDレビュー  Janre:音楽

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