吟遊詩人が今宵も奏でる美しき18の愛の物語。
SHE'S ALWAYS A WOMAN ~ LOVE SONGS BILLY JOEL
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She's Always A Woman (from The Stranger,1977)
Honesty (from 52nd Street,1978)
Just The Way You Are (from The Stranger,1977)
Travelin' Prayer (from Piano Man,1973)
An Innocent Man (from An Innocent Man,1983)
The Night Is Still Young (from Greatest Hits Ⅰ&Ⅱ,1985)
This Is The Time (from The Bridge,1986)
She's Got A Way (live version,from Songs In The Attic,1980)
Temptation (from The Bridge,1986)
Nocturne (from Cold Spring Harbor,1971)
Until The Night (from 52nd Street,1978)
She's Right On Time (from The Nylon Curtain,1982)
You're My Home (from Piano Man,1973)
State Of Grace (from Storm Front,1989)
This Night (from An Innocent Man,1983)
Shameless (from Storm Front,1989)
And So It Goes (from Storm Front,1989)
All About Soul (remix version,Original from River Of Dreams,1993)
「 生きる希望を持たせてくれたかと思えば、気ままにフッてしまうこともある。
誠実さを求めているのに、自分は絶対男を信じようとしない。
そして、与えたものは泥棒みたいに奪っていく・・。
でもあの娘は、僕にとっては、いつも可愛いやつなのさ。
(She's Always A Woman) 」
2月14日は、バレンタイン・デーです。
有難くも、こうも忙しく日々を過ごさせてもらってますと、
世で言う“イベント”的な
盛り上がりや“流れ”みたいなものも、スルーしてしまいがちです。
いけませんねぇ。 世間の“流れ”は知っとくべき。
取り残されますよ。
えっ、たか兄さん。
チョコのひとつももらってないんですか?
・・・。
実は、うちの会社じゃ、社内でのチョコのやり取りは禁止されてるんですよ。
(女子社員の負担を減らしたり、こんなもの“必要ない”との
社長の考えだそうですが)
女子社員してみれば、義理チョコ買う必要がないんで、
とても楽だって言ってますが、
う~ん、どうなんでしょ?
たかがチョコで目くじら立てんでもいいのにとも思うけど。
まぁ、私は、甘いもの苦手ですし・・。
そんな世間で言う、そんな“愛の告白日”には、
飛びっきりのラブ・ソングで過ごしましょうと言わんばかりか、
それに合わせてか(何か安易にビリーの曲を利用してるようで不満だが)、
ビリーのラブ・ソング集が発売されました。
またまたベスト盤です。
(いつになれば、新譜が聴けるんだろうなぁ・・)
ビリーのベスト盤って、似たような選曲で一体何枚出てんだか。
ただ今回のはちょっと一目置くべきブツ。
ファンならずも押さえるべき。
単なるベスト盤なら、わざわざココで取り上げません。
元々は、昨年末にオーストラリア盤で発売された、
ビリー初のラブ・ソング集なのだが、
曲順を大幅に変えて(曲目は変更なく)、日本でも発売されることになった。

しかし、この企画盤で注目すべきは。
“A Collection of Beautiful & Personally Selected Lovesongs by Billy Joel”
とあるように、ビリー本人が思い入れのあるラブ・ソングを
直接選曲をしたという点。
これは、過去のベスト盤にはなかったこと。
この事実だけでも興味が持てる。
(でも、このジャケは安直だなぁ。
もちょっと何とかなんなかったのかなぁ。
これって、“An Innocent Man”の7”シングル盤の使い回しじゃない、コレ。 )
「 彼女には、独特の雰囲気があるんだ。 なぜだかわからないけど・・。
ただ僕にわかることは、彼女がいないと生きていけないこと。
(She's Got A Way) 」
この選曲は、絶対ビリー本人が選ばない限り、
こんな曲は集まらない。
当然、最初の妻であったエリザベスの誕生日にプレゼントした、
あまりに美しい永遠の名曲“Just The Way You Are”や、
日本では異常に人気があるけど、実はアメリカでは
案外人気のない(?)あまりに切なすぎる誠実さを訴える
“Honesty”はもちろんだが、
ヒット曲や有名な曲に捉われないビリーの想いが詰まった、
愛の物語が綴られる。
才能の片鱗を開花させた「PIANO MAN」のオープニングを飾った
“Travelin' Prayer”や、
当時初のベスト盤に収録された新曲で、
まるでニール・サイモンの戯曲のような
ホロ苦い大人の愛を見事に描写した傑作“The Night Is Still Young”に、
「THE BRIDGE」から“Temptation”や、
ソロ・デビュー作「COLD SPRING HARBOR」から
美しいピアノ・インストゥルメンタル“Nocturne”。
病んだアメリカ人の諸問題を鋭く描いた傑作「THE NYLON CURTAIN」の
中から、ビリー唯一の恋人へのクリスマス賛歌
“She's Right On Time”もセレクトしてる(これは嬉しい)。
フォリナーのミック・ジョーンズと組んで、
パワフルかつキャッチーな作品に仕上げた
「STORM FRONT」から3曲選ばれ、
(隠れた名曲“State Of Grace”を選んでる!)
ドリフターズを意識したビリーの一人多重ドゥー・ワップの名曲
“This Night”も選んでいるし、「RIVER OF DREAMS」から、
信じることの大切さを世に訴えた“All About Soul”
のリミックス版で締めくくられる。
「 人は誰でも、心の中に揺るぎない聖域を持っているもの。
人は、そこで失った恋の痛手を癒し、新しい恋との出会いを待つのだ。
(And So It Goes) 」
こうやって曲を眺めてみると、「LOVESONGS」と銘打っているのに、
“Love(愛)”という文字が入った曲が一曲もないことに気が付く。
思うに、ビリーの詞は、恋愛をしている自分とは別に恋愛について考える、
もう一人の自分を歌詞に持ち込んだことではないんじゃないのかなと考える。
曲によっては、哲学的にやや小難しくしているようなのもあるけど、
ビリーの書く曲は、その恋愛の風景画を描くように、
そのシチュエーションが目の前に浮かんでくるように展開する。
これは、相手を思う言葉とは別に、相手を思っている自分を
“客観的”にみる言葉がビリーには多いためだ。
「 君を愛してしまってからは、僕はひどい恥知らずさ。
望むことなら、何でもしてしまうし・・。
僕は変わってしまったさ。
今まで妥協なんてしたことなった。 でも君との出会いで変えたんだ。
真の強い男とは、悪かったと謝ったり、過ちを素直に認めることができる。
失ったものに後悔したこと一度もなかったけど、
これほど、恋しく思う事など生まれてはじめてだ・・。
(Shameless) 」
確かに恋愛で“妥協”という言い方は嫌われるかもしれない。
でも、交渉や譲歩のない関係というものも、人間関係として、
対等とも正常とも言えなくもない。
妙に大人びた考えかもしれないけど、現実そうなのだと思う。
相手を受け入れながら、自分も主張する。
相手を頼りながらも、相手も自分を頼りにする。
つまり、相手との関係が自分自身を形作る重要な部分になる。
そういうのが、“対等な関係の恋愛”とも言えるのではないかなと思う。
だから、短絡的に“Love”なんて言葉をタイトルに用いないのだろう。
「恋に恋する恋」や「恋愛ごっこ」のような子供じみたラブ・ソングなど、
ビリーのラブ・ソングには、一曲もないのだから。

ビリーの曲の恋愛対象は、当時の奥さんの場合がほとんどなんだけど、
「君を愛している。 君が必要なんだ」といった、
ド真ん中の“直球”のラブ・ソングは、
ビリーには、実はあまり多くない。
あまり印象がないのだ。
真っすぐなのは、あの“分かりやすい”名曲“Just The Way You Are”くらいか・・。
ただそれも、自分の好みを妻に押しつけているようにも聴こえるけれど、
この曲で最後に素直に「I Love You The Way You Are(今のままの君が好きなんだ)」
と打ち明けるように、どことなくシニカルで照れてるのだ。
「 今こそ、思い出を作る時。
この時は、永遠には続かないんだ。 だから、しっかり抱きしめよう。
なぜなら、いずれは、そうしたくても出来なくなる時が訪れるから。
いつの日か、昔を振り返って、笑いあえるといいね。
お互いに、幸せに満ち溢れた余生を送りながら・・。
(This Is The Time) 」
大いなる人類愛や世界愛を匂わす曲は少ないものの、
ビリーの書く“愛の物語”は、
むしろ、“Life(人生)”や“Time(時)”、そして、“Night(夜)”といった
空間や次元を用いて、様々な恋愛を表現する曲が多いのも特徴だろう。

NYはブルックリンで生まれ、
わずか3歳でモーツァルトを聴き弾きこなしていたという
この“神童”は、すでに「ピアノと運命を共にする人生」を歩み始めていた。
地元でバンドを組むも芽が出ず、売れないラウンジ・ピアニストとして
日銭を稼ぐ日々。 時に故郷を離れ、LAでチャンスを伺い、
そこでCBSの幹部と出会いメジャーデビューし、
再びNYに戻ってきてから、やっとその地位を不動のものにした苦労人。
ピアノの調べにその時の思いを綴り、詞を書き、各地(各場面)を、
まるで詩人の描くストーリーの如く、歌い歩いて旅する。
彼が“吟遊詩人”と呼ばれる理由はココにあるんじゃないのかなと思う。
「 ペンシルベニアのターンパイクに、朝霧の覆ったインディアナ。
それに、カリフォルニアの丘の上。
でも、僕にとって故郷ってのは君のこと。 故郷と呼べるとこなんてないんだ。
生まれながらの風来坊だから、死ぬまで旅し続ける僕さ。
だから、君が寄り添ってくれてるだけで、暖かい家庭にいるのと同じなんだ。
(You're My Home) 」
ビリーのラブ・ソングは、
綺麗にデコレーションした甘くて愛らしいチョコではない。
ビターな“ホロ苦さ”と“豊潤な甘さ”を兼ね備えた格式高い大人のチョコ。
我々同世代や年老いた年代のための愛の贈り物としては
最適なラブ・ソング集だろう。
そういえば、冒頭の質問に答えてませんでした。
妻は気を使ってか、
いつもチョコと一緒にウィスキーのボトルをおまけしてくれます。
でも今年は、「ウイスキーボンボン」でした。 ・・・(笑)。
私しゃ、この1個で十分。 可愛い奴です、ほんと。
.jpg)
She's Always A Woman (from The Stranger,1977)
Honesty (from 52nd Street,1978)
Just The Way You Are (from The Stranger,1977)
Travelin' Prayer (from Piano Man,1973)
An Innocent Man (from An Innocent Man,1983)
The Night Is Still Young (from Greatest Hits Ⅰ&Ⅱ,1985)
This Is The Time (from The Bridge,1986)
She's Got A Way (live version,from Songs In The Attic,1980)
Temptation (from The Bridge,1986)
Nocturne (from Cold Spring Harbor,1971)
Until The Night (from 52nd Street,1978)
She's Right On Time (from The Nylon Curtain,1982)
You're My Home (from Piano Man,1973)
State Of Grace (from Storm Front,1989)
This Night (from An Innocent Man,1983)
Shameless (from Storm Front,1989)
And So It Goes (from Storm Front,1989)
All About Soul (remix version,Original from River Of Dreams,1993)
「 生きる希望を持たせてくれたかと思えば、気ままにフッてしまうこともある。
誠実さを求めているのに、自分は絶対男を信じようとしない。
そして、与えたものは泥棒みたいに奪っていく・・。
でもあの娘は、僕にとっては、いつも可愛いやつなのさ。
(She's Always A Woman) 」
2月14日は、バレンタイン・デーです。
有難くも、こうも忙しく日々を過ごさせてもらってますと、
世で言う“イベント”的な
盛り上がりや“流れ”みたいなものも、スルーしてしまいがちです。
いけませんねぇ。 世間の“流れ”は知っとくべき。
取り残されますよ。
えっ、たか兄さん。
チョコのひとつももらってないんですか?
・・・。
実は、うちの会社じゃ、社内でのチョコのやり取りは禁止されてるんですよ。
(女子社員の負担を減らしたり、こんなもの“必要ない”との
社長の考えだそうですが)
女子社員してみれば、義理チョコ買う必要がないんで、
とても楽だって言ってますが、
う~ん、どうなんでしょ?
たかがチョコで目くじら立てんでもいいのにとも思うけど。
まぁ、私は、甘いもの苦手ですし・・。
そんな世間で言う、そんな“愛の告白日”には、
飛びっきりのラブ・ソングで過ごしましょうと言わんばかりか、
それに合わせてか(何か安易にビリーの曲を利用してるようで不満だが)、
ビリーのラブ・ソング集が発売されました。
またまたベスト盤です。
(いつになれば、新譜が聴けるんだろうなぁ・・)
ビリーのベスト盤って、似たような選曲で一体何枚出てんだか。
ただ今回のはちょっと一目置くべきブツ。
ファンならずも押さえるべき。
単なるベスト盤なら、わざわざココで取り上げません。
元々は、昨年末にオーストラリア盤で発売された、
ビリー初のラブ・ソング集なのだが、
曲順を大幅に変えて(曲目は変更なく)、日本でも発売されることになった。

しかし、この企画盤で注目すべきは。
“A Collection of Beautiful & Personally Selected Lovesongs by Billy Joel”
とあるように、ビリー本人が思い入れのあるラブ・ソングを
直接選曲をしたという点。
これは、過去のベスト盤にはなかったこと。
この事実だけでも興味が持てる。
(でも、このジャケは安直だなぁ。
もちょっと何とかなんなかったのかなぁ。
これって、“An Innocent Man”の7”シングル盤の使い回しじゃない、コレ。 )
「 彼女には、独特の雰囲気があるんだ。 なぜだかわからないけど・・。
ただ僕にわかることは、彼女がいないと生きていけないこと。
(She's Got A Way) 」
この選曲は、絶対ビリー本人が選ばない限り、
こんな曲は集まらない。
当然、最初の妻であったエリザベスの誕生日にプレゼントした、
あまりに美しい永遠の名曲“Just The Way You Are”や、
日本では異常に人気があるけど、実はアメリカでは
案外人気のない(?)あまりに切なすぎる誠実さを訴える
“Honesty”はもちろんだが、
ヒット曲や有名な曲に捉われないビリーの想いが詰まった、
愛の物語が綴られる。
才能の片鱗を開花させた「PIANO MAN」のオープニングを飾った
“Travelin' Prayer”や、
当時初のベスト盤に収録された新曲で、
まるでニール・サイモンの戯曲のような
ホロ苦い大人の愛を見事に描写した傑作“The Night Is Still Young”に、
「THE BRIDGE」から“Temptation”や、
ソロ・デビュー作「COLD SPRING HARBOR」から
美しいピアノ・インストゥルメンタル“Nocturne”。
病んだアメリカ人の諸問題を鋭く描いた傑作「THE NYLON CURTAIN」の
中から、ビリー唯一の恋人へのクリスマス賛歌
“She's Right On Time”もセレクトしてる(これは嬉しい)。
フォリナーのミック・ジョーンズと組んで、
パワフルかつキャッチーな作品に仕上げた
「STORM FRONT」から3曲選ばれ、
(隠れた名曲“State Of Grace”を選んでる!)
ドリフターズを意識したビリーの一人多重ドゥー・ワップの名曲
“This Night”も選んでいるし、「RIVER OF DREAMS」から、
信じることの大切さを世に訴えた“All About Soul”
のリミックス版で締めくくられる。
「 人は誰でも、心の中に揺るぎない聖域を持っているもの。
人は、そこで失った恋の痛手を癒し、新しい恋との出会いを待つのだ。
(And So It Goes) 」
こうやって曲を眺めてみると、「LOVESONGS」と銘打っているのに、
“Love(愛)”という文字が入った曲が一曲もないことに気が付く。
思うに、ビリーの詞は、恋愛をしている自分とは別に恋愛について考える、
もう一人の自分を歌詞に持ち込んだことではないんじゃないのかなと考える。
曲によっては、哲学的にやや小難しくしているようなのもあるけど、
ビリーの書く曲は、その恋愛の風景画を描くように、
そのシチュエーションが目の前に浮かんでくるように展開する。
これは、相手を思う言葉とは別に、相手を思っている自分を
“客観的”にみる言葉がビリーには多いためだ。
「 君を愛してしまってからは、僕はひどい恥知らずさ。
望むことなら、何でもしてしまうし・・。
僕は変わってしまったさ。
今まで妥協なんてしたことなった。 でも君との出会いで変えたんだ。
真の強い男とは、悪かったと謝ったり、過ちを素直に認めることができる。
失ったものに後悔したこと一度もなかったけど、
これほど、恋しく思う事など生まれてはじめてだ・・。
(Shameless) 」
確かに恋愛で“妥協”という言い方は嫌われるかもしれない。
でも、交渉や譲歩のない関係というものも、人間関係として、
対等とも正常とも言えなくもない。
妙に大人びた考えかもしれないけど、現実そうなのだと思う。
相手を受け入れながら、自分も主張する。
相手を頼りながらも、相手も自分を頼りにする。
つまり、相手との関係が自分自身を形作る重要な部分になる。
そういうのが、“対等な関係の恋愛”とも言えるのではないかなと思う。
だから、短絡的に“Love”なんて言葉をタイトルに用いないのだろう。
「恋に恋する恋」や「恋愛ごっこ」のような子供じみたラブ・ソングなど、
ビリーのラブ・ソングには、一曲もないのだから。

ビリーの曲の恋愛対象は、当時の奥さんの場合がほとんどなんだけど、
「君を愛している。 君が必要なんだ」といった、
ド真ん中の“直球”のラブ・ソングは、
ビリーには、実はあまり多くない。
あまり印象がないのだ。
真っすぐなのは、あの“分かりやすい”名曲“Just The Way You Are”くらいか・・。
ただそれも、自分の好みを妻に押しつけているようにも聴こえるけれど、
この曲で最後に素直に「I Love You The Way You Are(今のままの君が好きなんだ)」
と打ち明けるように、どことなくシニカルで照れてるのだ。
「 今こそ、思い出を作る時。
この時は、永遠には続かないんだ。 だから、しっかり抱きしめよう。
なぜなら、いずれは、そうしたくても出来なくなる時が訪れるから。
いつの日か、昔を振り返って、笑いあえるといいね。
お互いに、幸せに満ち溢れた余生を送りながら・・。
(This Is The Time) 」
大いなる人類愛や世界愛を匂わす曲は少ないものの、
ビリーの書く“愛の物語”は、
むしろ、“Life(人生)”や“Time(時)”、そして、“Night(夜)”といった
空間や次元を用いて、様々な恋愛を表現する曲が多いのも特徴だろう。

NYはブルックリンで生まれ、
わずか3歳でモーツァルトを聴き弾きこなしていたという
この“神童”は、すでに「ピアノと運命を共にする人生」を歩み始めていた。
地元でバンドを組むも芽が出ず、売れないラウンジ・ピアニストとして
日銭を稼ぐ日々。 時に故郷を離れ、LAでチャンスを伺い、
そこでCBSの幹部と出会いメジャーデビューし、
再びNYに戻ってきてから、やっとその地位を不動のものにした苦労人。
ピアノの調べにその時の思いを綴り、詞を書き、各地(各場面)を、
まるで詩人の描くストーリーの如く、歌い歩いて旅する。
彼が“吟遊詩人”と呼ばれる理由はココにあるんじゃないのかなと思う。
「 ペンシルベニアのターンパイクに、朝霧の覆ったインディアナ。
それに、カリフォルニアの丘の上。
でも、僕にとって故郷ってのは君のこと。 故郷と呼べるとこなんてないんだ。
生まれながらの風来坊だから、死ぬまで旅し続ける僕さ。
だから、君が寄り添ってくれてるだけで、暖かい家庭にいるのと同じなんだ。
(You're My Home) 」
ビリーのラブ・ソングは、
綺麗にデコレーションした甘くて愛らしいチョコではない。
ビターな“ホロ苦さ”と“豊潤な甘さ”を兼ね備えた格式高い大人のチョコ。
我々同世代や年老いた年代のための愛の贈り物としては
最適なラブ・ソング集だろう。
そういえば、冒頭の質問に答えてませんでした。
妻は気を使ってか、
いつもチョコと一緒にウィスキーのボトルをおまけしてくれます。
でも今年は、「ウイスキーボンボン」でした。 ・・・(笑)。
私しゃ、この1個で十分。 可愛い奴です、ほんと。
真夜中に木霊する哀愁の旋律と口笛の響き。
THE STRANGER BILLY JOEL

Movin' Out (Anthony's Song) ムーヴィン・アウト
The Stranger ストレンジャー
Just the Way You Are 素顔のままで
Scenes from an Italian Restaurant イタリアン・レストランで
Vienna ウィーン
Only the Good Die Young 若死にするのは善人だけ
She's Always a Woman シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン
Get It Right the First Time 最初が肝心
Everybody Has a Dream エブリバディ・ハズ・ア・ドリーム
日本には、変な迷信がいっぱいあります。
「夜、口笛を吹くとヘビが出るぞ」なんて、子供の頃に、よく親に怒られたもんです。
逆に、ヘビ見たさに夜、覚えたての口笛をピーピー鳴らしたりして。
真っ暗になった部屋の中で、ラジカセのイヤホンから流れてくる、あの哀愁の旋律。
そして、絶妙なタイミングで入ってくる、あの口笛の響き。
そして、一瞬のブレイクの“間”の後、入ってくるビートとギター・フレーズ。
どれをとっても、全てが新鮮で衝撃的。 メロディも転調も素晴らしい。
それはまるで、見知らぬ都会の慟哭を歌っているかのように聴こえた・・。
深夜遅く自室に戻り、それまで“外”へ向けて被っていた虚飾のマスクを外し、
本当の自分に戻る。 つけていた能面(マスク)と向かい合う男。
「人々は仮面を付けて、外側から身を守る。」
つまり、自分の中にある仮面(他人)と向き合うことを余儀なくされる。
それは、大都会ニューヨークに住む人々の癒されない孤独感と心模様(ドラマ)を
描いた“音の絵画”。 人間の弱さ、もろさを表現した詞に実にマッチしていて、
ビリーは、その二面性を見事に“音”で表現する。
今回は、彼の出世作であり、77年の不朽の名作「THE STRANGER」を、
“素直”に語りたく思います。 よろしく、お付き合いを。

“吟遊詩人”という言葉で私が思い浮かべるのは、やはりビリーだ。
ポール・サイモンじゃ知的に過ぎるし、ジャクソン・ブラウンじゃ真面目過ぎる。
ブルース・スプリングスティーンは・・詩人というか、労働者階級の代弁者だし。
ディラン?・・は違うなぁ。 彼は天才。 ただ歌いたいことを歌ってるだけ。
吟遊詩人には、必ず“風景”があって、そこに、どこかしら“おどけた”ところが
必要なのではないかと思うんです。
昔の映画とかで、よくあるじゃないですか。
ダンス・パーティで上手くステップを踏もうとするんだけれど、ヘタクソで
どうしても足を引き摺ってしまう・・・。 そんな男でも恋をする・・みたいな。
そんな“世のブ男の強い味方”。 それが、ビリー最大の魅力なのでは。
ビリーの歌は、そんな“もてない男”の世界をうまく描いていると思う。
私の出会いの「ATTIC」後、ラジオから流れてきた、なぜか日本で局地的な
人気を持つ(アメリカでは未シングル化)“The Stranger”をきっかけに、
さらに彼の魅力にハマりこんだのは、やはり77年に発表された本作のせい。
誰が何と言おうが、やはり名盤に違いありません。
彼のビッグ・サクセスは、このアルバムから始まったワケです。
(2008年に30周年記念盤が出ましたが、これも素晴らしい“箱”でした。
最新リマスタリングと、Disc2の未発表ライブ、DVDの特典内容が凄かった。
ライブのセットリスト・音質共に見事。 アルバムの録音以前のライブで、
“素顔のままで”と“イタリアン・レストランで”は、アレンジが
今では聴き馴染みのあるものは違ってるし、秘蔵ライブ映像も含めて
家宝になっております。 )
アメリカのメジャーシーンでの、70年代初めからのシンガー・ソングライター・
ブームから、フロア中心のディスコ・ブームに変わりつつあった当時。
ニューヨークを舞台にした現代人の孤独をソフィスティケイトされたメロディと
風景画的なリリックで表現し尽くした傑作がコレ。
この作品の成功は、かねてからアプローチしていた当時売れっ子プロデューサー
だった、フィル・ラモーンを起用したことが一番の要因だろう。
(この作品後も、彼のキャリアの重要な作品で共同作業していくことになるが、
最初は当時の愛妻でマネージャーだったエリザベスの口説きに折れたそうだが)

それまでのビリー・ジョエルといえば、「PIANO MAN」に代表されるように
“詩的でフォーキーなピアノ・ソングライター”というイメージが強く、
隠れた名曲もたくさん書いていたんだけど、大きなヒットになることはなく、
彼にスポットライトが当たることはなかった。
しかし、フィル・ラモーン起用最大の功績は「力強いバンド・サウンドの導入」。
これが当たった。 過去のアルバムと決定的に違うところはここ。
(過去の隠れた名曲を蘇らせた「ATTIC」の最大の要因は“バンド”を築いたこと)
バンドを強固にすることで、サウンドのスケールを大きく拡げるとともに、
表現における自由度を飛躍的にアップさせて、多様なアイデアも提案、実現でき、
ビリーの楽曲の魅力を最大限に引き出すことが出来たんだと思う。

ドラムに、盟友リバティ・デビート。 ベースに、故ダグ・ステッグメイヤー。
のリズム隊に、花形サックス奏者リッチー・カナータという、ビリー・バンドの
基本型が築かれて、ゲスト・ギタリストにハイラム・ブロックやスティーヴ・カーン
といったジャズ系の職人や、アコギにヒュー・マクラッケンを起用。
また、リチャード・ティーのオルガンに、ラルフ・マクドナルドのパーカッション。
バック・コーラスに、フィービー・スノウや無名だったパティ・オースティンなど
実に手堅い職人ミュージシャンを多数起用して、ビリーを盛りたてる。
(ちなみに、ビリーは最近になって、印税の支払いで裁判で争っていたリバティと
ようやく友好的な和解が成立したそうです。 やれやれ。 良かった良かった。)
そんな凄腕のミュージシャン達をバックに、ビリーは才能を爆発させる。
フォークやカントリーといったアメリカン・ミュージックのルーツを洗練された
サウンドのなかで再現することで、新しいアメリカン・ポップスのフォームを
生み出したという点でも、アメリカン・ポップス史上極めて重要な作品なワケです。
“ムーヴィン・アウト”の歯切れの良いアレンジや、“イタリアン・レストランで”
の起伏のある曲想。 そして、“ウィーン”のほのかな哀愁漂うアコーディオンの音色。
今までは、垢抜けない安いバーでのピアノ弾きでしかなかったビリーを、
違う次元にまで押し上げている。
でも、アルバムの主役は“Just The Way You Are(素顔のままで)”だろう。
最初はアルバムから外される可能性もあったらしいけど、レコーディングに参加
していたフィービー・スノウが絶賛をして、収録したという逸話もある、
エリザベスへのバースディ・プレゼントとして捧げられたビリーの代表曲だ。
リチャード・ティー(ビリー本人との説もあるが)の奏でるフェンダー・ローズ
のイントロに次第に導かれていくように、ボサノバのリズムに乗せて、
「ありのままの君が一番素敵なんだよ」と歌うビリーの“素直”な詞が心を打つ。
( でも、シングル・バージョンは、ちょっといただけません。 2番の、
「服装や髪の色なんて変えちゃダメだよ。
気のきいた会話もいらないよ。 疲れるだけだし。
気安くなんでも話せる、今の君が一番素敵なんだよ。」
という一番好きな歌詞がバッサリとカットされてる・・。 )
そして、心の琴線に触れまくるアルト・サックスの甘く響き渡る音色。
これは、バンドの花形サックス奏者リッチー・カナータではなく、
(彼はテナー/ソプラノ・サックス奏者)
ゲスト参加しているアルト・サックス奏者フィル・ウッズによるもの。
この素晴らしいソロで、曲の魅力が倍増。 貢献度はあまりに大きい。
まさに名曲に名演あり。

私のお気に入りとして、ある意味でコンセプト・アルバムと言えるこの作品の
最後を締めくくる佳曲である“Everybody Has a Dream”を挙げたい。
「 静かな絶望に沈むこの時代に 僕は世界をさまよいながら、
新しい閃きを探していた。
与えられたものは冷ややかな現実だけだったけれども。
お祝いをする理由が欲しい時や心慰める安らぎが欲しい時、
僕は想像に身を委ね、夢の世界にまどろむ。
誰もが夢を見る。 そして、僕の夢。 僕だけの夢。
家でくつろぐひととき。 二人だけで・・ 君と。 」
これは、夜、静かな部屋で一人聴くべき曲だろう。
様々な愛の形が歌われた後、ピアノとオルガンの静かで荘重な響きの中で、
ビリーは「誰もが夢を見る」と囁く。
このフレーズは繰り返されるうちに絶叫に変わり、消えていく。
そして、再びあの“The Stranger”の旋律と口笛が木霊するのである・・。

アルバムのジャケットでビリーはベッドに横たわり、マスクを見つめている。
壁にはボクシングのグローブが下がっている。
きっと無名のボクサーなのだろう。 誰の顔も傷つけることはない。
いや、出来ないはず・・。
自分の“もう一つの”顔に何を夢見ているのだろうか。

Movin' Out (Anthony's Song) ムーヴィン・アウト
The Stranger ストレンジャー
Just the Way You Are 素顔のままで
Scenes from an Italian Restaurant イタリアン・レストランで
Vienna ウィーン
Only the Good Die Young 若死にするのは善人だけ
She's Always a Woman シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン
Get It Right the First Time 最初が肝心
Everybody Has a Dream エブリバディ・ハズ・ア・ドリーム
日本には、変な迷信がいっぱいあります。
「夜、口笛を吹くとヘビが出るぞ」なんて、子供の頃に、よく親に怒られたもんです。
逆に、ヘビ見たさに夜、覚えたての口笛をピーピー鳴らしたりして。
真っ暗になった部屋の中で、ラジカセのイヤホンから流れてくる、あの哀愁の旋律。
そして、絶妙なタイミングで入ってくる、あの口笛の響き。
そして、一瞬のブレイクの“間”の後、入ってくるビートとギター・フレーズ。
どれをとっても、全てが新鮮で衝撃的。 メロディも転調も素晴らしい。
それはまるで、見知らぬ都会の慟哭を歌っているかのように聴こえた・・。
深夜遅く自室に戻り、それまで“外”へ向けて被っていた虚飾のマスクを外し、
本当の自分に戻る。 つけていた能面(マスク)と向かい合う男。
「人々は仮面を付けて、外側から身を守る。」
つまり、自分の中にある仮面(他人)と向き合うことを余儀なくされる。
それは、大都会ニューヨークに住む人々の癒されない孤独感と心模様(ドラマ)を
描いた“音の絵画”。 人間の弱さ、もろさを表現した詞に実にマッチしていて、
ビリーは、その二面性を見事に“音”で表現する。
今回は、彼の出世作であり、77年の不朽の名作「THE STRANGER」を、
“素直”に語りたく思います。 よろしく、お付き合いを。

“吟遊詩人”という言葉で私が思い浮かべるのは、やはりビリーだ。
ポール・サイモンじゃ知的に過ぎるし、ジャクソン・ブラウンじゃ真面目過ぎる。
ブルース・スプリングスティーンは・・詩人というか、労働者階級の代弁者だし。
ディラン?・・は違うなぁ。 彼は天才。 ただ歌いたいことを歌ってるだけ。
吟遊詩人には、必ず“風景”があって、そこに、どこかしら“おどけた”ところが
必要なのではないかと思うんです。
昔の映画とかで、よくあるじゃないですか。
ダンス・パーティで上手くステップを踏もうとするんだけれど、ヘタクソで
どうしても足を引き摺ってしまう・・・。 そんな男でも恋をする・・みたいな。
そんな“世のブ男の強い味方”。 それが、ビリー最大の魅力なのでは。
ビリーの歌は、そんな“もてない男”の世界をうまく描いていると思う。
私の出会いの「ATTIC」後、ラジオから流れてきた、なぜか日本で局地的な
人気を持つ(アメリカでは未シングル化)“The Stranger”をきっかけに、
さらに彼の魅力にハマりこんだのは、やはり77年に発表された本作のせい。
誰が何と言おうが、やはり名盤に違いありません。
彼のビッグ・サクセスは、このアルバムから始まったワケです。
(2008年に30周年記念盤が出ましたが、これも素晴らしい“箱”でした。
最新リマスタリングと、Disc2の未発表ライブ、DVDの特典内容が凄かった。
ライブのセットリスト・音質共に見事。 アルバムの録音以前のライブで、
“素顔のままで”と“イタリアン・レストランで”は、アレンジが
今では聴き馴染みのあるものは違ってるし、秘蔵ライブ映像も含めて
家宝になっております。 )
アメリカのメジャーシーンでの、70年代初めからのシンガー・ソングライター・
ブームから、フロア中心のディスコ・ブームに変わりつつあった当時。
ニューヨークを舞台にした現代人の孤独をソフィスティケイトされたメロディと
風景画的なリリックで表現し尽くした傑作がコレ。
この作品の成功は、かねてからアプローチしていた当時売れっ子プロデューサー
だった、フィル・ラモーンを起用したことが一番の要因だろう。
(この作品後も、彼のキャリアの重要な作品で共同作業していくことになるが、
最初は当時の愛妻でマネージャーだったエリザベスの口説きに折れたそうだが)

それまでのビリー・ジョエルといえば、「PIANO MAN」に代表されるように
“詩的でフォーキーなピアノ・ソングライター”というイメージが強く、
隠れた名曲もたくさん書いていたんだけど、大きなヒットになることはなく、
彼にスポットライトが当たることはなかった。
しかし、フィル・ラモーン起用最大の功績は「力強いバンド・サウンドの導入」。
これが当たった。 過去のアルバムと決定的に違うところはここ。
(過去の隠れた名曲を蘇らせた「ATTIC」の最大の要因は“バンド”を築いたこと)
バンドを強固にすることで、サウンドのスケールを大きく拡げるとともに、
表現における自由度を飛躍的にアップさせて、多様なアイデアも提案、実現でき、
ビリーの楽曲の魅力を最大限に引き出すことが出来たんだと思う。

ドラムに、盟友リバティ・デビート。 ベースに、故ダグ・ステッグメイヤー。
のリズム隊に、花形サックス奏者リッチー・カナータという、ビリー・バンドの
基本型が築かれて、ゲスト・ギタリストにハイラム・ブロックやスティーヴ・カーン
といったジャズ系の職人や、アコギにヒュー・マクラッケンを起用。
また、リチャード・ティーのオルガンに、ラルフ・マクドナルドのパーカッション。
バック・コーラスに、フィービー・スノウや無名だったパティ・オースティンなど
実に手堅い職人ミュージシャンを多数起用して、ビリーを盛りたてる。
(ちなみに、ビリーは最近になって、印税の支払いで裁判で争っていたリバティと
ようやく友好的な和解が成立したそうです。 やれやれ。 良かった良かった。)
そんな凄腕のミュージシャン達をバックに、ビリーは才能を爆発させる。
フォークやカントリーといったアメリカン・ミュージックのルーツを洗練された
サウンドのなかで再現することで、新しいアメリカン・ポップスのフォームを
生み出したという点でも、アメリカン・ポップス史上極めて重要な作品なワケです。
“ムーヴィン・アウト”の歯切れの良いアレンジや、“イタリアン・レストランで”
の起伏のある曲想。 そして、“ウィーン”のほのかな哀愁漂うアコーディオンの音色。
今までは、垢抜けない安いバーでのピアノ弾きでしかなかったビリーを、
違う次元にまで押し上げている。
でも、アルバムの主役は“Just The Way You Are(素顔のままで)”だろう。
最初はアルバムから外される可能性もあったらしいけど、レコーディングに参加
していたフィービー・スノウが絶賛をして、収録したという逸話もある、
エリザベスへのバースディ・プレゼントとして捧げられたビリーの代表曲だ。
リチャード・ティー(ビリー本人との説もあるが)の奏でるフェンダー・ローズ
のイントロに次第に導かれていくように、ボサノバのリズムに乗せて、
「ありのままの君が一番素敵なんだよ」と歌うビリーの“素直”な詞が心を打つ。
( でも、シングル・バージョンは、ちょっといただけません。 2番の、
「服装や髪の色なんて変えちゃダメだよ。
気のきいた会話もいらないよ。 疲れるだけだし。
気安くなんでも話せる、今の君が一番素敵なんだよ。」
という一番好きな歌詞がバッサリとカットされてる・・。 )
そして、心の琴線に触れまくるアルト・サックスの甘く響き渡る音色。
これは、バンドの花形サックス奏者リッチー・カナータではなく、
(彼はテナー/ソプラノ・サックス奏者)
ゲスト参加しているアルト・サックス奏者フィル・ウッズによるもの。
この素晴らしいソロで、曲の魅力が倍増。 貢献度はあまりに大きい。
まさに名曲に名演あり。

私のお気に入りとして、ある意味でコンセプト・アルバムと言えるこの作品の
最後を締めくくる佳曲である“Everybody Has a Dream”を挙げたい。
「 静かな絶望に沈むこの時代に 僕は世界をさまよいながら、
新しい閃きを探していた。
与えられたものは冷ややかな現実だけだったけれども。
お祝いをする理由が欲しい時や心慰める安らぎが欲しい時、
僕は想像に身を委ね、夢の世界にまどろむ。
誰もが夢を見る。 そして、僕の夢。 僕だけの夢。
家でくつろぐひととき。 二人だけで・・ 君と。 」
これは、夜、静かな部屋で一人聴くべき曲だろう。
様々な愛の形が歌われた後、ピアノとオルガンの静かで荘重な響きの中で、
ビリーは「誰もが夢を見る」と囁く。
このフレーズは繰り返されるうちに絶叫に変わり、消えていく。
そして、再びあの“The Stranger”の旋律と口笛が木霊するのである・・。

アルバムのジャケットでビリーはベッドに横たわり、マスクを見つめている。
壁にはボクシングのグローブが下がっている。
きっと無名のボクサーなのだろう。 誰の顔も傷つけることはない。
いや、出来ないはず・・。
自分の“もう一つの”顔に何を夢見ているのだろうか。
屋根裏部屋の名曲たちは眠らず。
SONGS IN THE ATTIC BILLY JOEL

Miami 2017 (Seen The Lights Go Out On Broadway)
マイアミ2017
Summer, Highland Falls 夏、ハイランドフォールにて
Streetlife Serenader 街の吟遊詩人は...
Los Angelenos ロスアンジェルス紀行
She's Got A Way シーズ・ガット・ア・ウェイ
Everybody Loves You Now エブリバディ・ラブズ・ユー・ナウ
Say Goodgye To Hollywood さよならハリウッド
Captain Jack キャプテン・ジャック
You're My Home 僕の故郷
The Ballad Of Billy The Kid さすらいのビリー・ザ・キッド
I've Loved These Days 楽しかった日々
最近、またよくライヴ盤を聴くようになった。
これといってライブに行く機会もめっきり減って、無意識に体が“欲して”いるのか
わかんないんだけど、なんか、あの“アツい”雰囲気が実に心地いいのだ。
特にジャンルや特定のアーチストのヤツってのはないんだけど、片っぱしに。
そこで、20年以上(いや、もっと前かな)聴いてなくて、久しぶりに耳にしたコレ。
しかし今に至っても、当時の感動が甦ってくる。 名曲名演は、時代を超えるんだ。
でも、“屋根裏”ほど奥にはしまってなかったけど、ちょっと埃かぶってました・・。
ごめんね、ビリー・・。
ガキの頃、TVで偶然見た、ビリーがライブハウスで歌う、“さよならハリウッド”。
鮮烈だった。 瞬きするのが、嫌なくらいに見た。 真剣に見た。
素晴らしい。 ブラボー。 実に素晴らかった。 TVに向かって拍手したっけ。
そして、私が生まれて初めて手にしたライブ盤がコレだった。
80年6~7月の「GLASS HOUSE」の全米ツアーからのライブ・レコーディングで、
ビリーにとって初の公式ライブ盤。 しかし、かなり異色の内容だった。
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いのビリー。 ヒット曲満載の構成かと思いきや、
「THE STRANGER」でビッグ・ヒットした以降の曲は、まるで無視して、
メジャー・デビューして、初期の全く売れなかった時代の4作品からの選曲に。
自身初のライブ盤としては、ある意味“無謀”な企画。
皆が“素顔のままで”や、“マイ・ライフ”が聴きたいはずなのに。
「SONGS IN THE ATTIC (屋根裏部屋にしまっておいた曲たち)」

ビリーは今まで、日の当たらなかった隠れた曲ばかりをあえて選んだ。
思うに、自らの曲に対する愛情が我々の想像を超えるほど深いこと。
そして、とても大事にしていること。 売れてる売れてないは関係ない。
ヒット曲という“地位”、“称号”は、我々ファンが与えるもの。
ビリー自身にとっては、ヒット曲。 イコール。 愛情が深いとはならないんだ。
この80年くらいに、ビリーのバンドが、がっちり固定された。
ドラムにリバティ・デヴィート。 ベースにダグ・スティグマイヤー。(95年に没)
の土台に、ギタリストにデヴィッド・ブラウンとラッセル・ジャヴァーズ。
花形サックスは、あのリッチー・カナータ。 そして、天才ピアノマンのビリー。
このバンドの演奏力と安定感が“屋根裏の曲”に、新たな生命力と輝きを与える。
影の大傑作「ニューヨーク物語(TURNSTILES)」から4曲セレクトされているが、
聴き始めた当初は、“さよならハリウッド”の爽快で切れのあるアレンジに圧倒、
(アルバムでは、スペクターの“音の壁”をオマージュした作りだったけど)
“夏、ハイランドフォールにて”の切ないメロディと、“楽しかった日々”での美しい
ピアノの旋律に涙がちょちょ切れ。 すぐにアルバムの虜になってしまうはめに。
ただ、“マイアミ2017”の歌詞には、当時は非現実的な歌詞だなぁと思ってたけど、
まさか、あの悲劇(9・11)を予言してたかの内容は、今でもショックを覚える。
( 「ブロードウェイの灯が消えてしまった・・。
エンパイア・ステイト・ビルは倒されてしまい、人々は避難する。」
この曲を、2001年のMSGでのNY追悼チャリティ・ライブで歌うビリー。
怒ってた。 心底、怒ってた。 アツかった。 これぞ、ロックだ。 )
また、隠れデビュー作の「COLD SPRING HARBOR」の存在を知ったことも。
(才能の片鱗は見せたのもの、まだ原石のまま。 案の定、全く売れず。
おまけにトラックダウンの際に、マスターテープのスピードを速く録音されて、
ビリーの歌がやたらカン高くて、聴きづらい。 スタッフ何してんの?
悪徳プロデューサーによる印税の呪縛から解放され、83年12月には、
テープ回転が、きっちり修正され、一部アレンジも変えて再発された。)
“She's Got A Way”は、この叙情的でしっとりした雰囲気と美しさは、
この頃からすでに“オネスティ”のプロトタイプを書いていたといえるし、
オリジナルでの、ビリーの超人的早弾きと、流暢なメロディラインが印象的な
“Everybody Loves You Now”は、このバンドでは、ギター・カッテイングで
アレンジされ、アコースティック・ロックに甦らせる。 このセンスには脱帽。
でもやっぱ日本じゃ、ビリーは、“素顔のまま”であり、“オネスティ”であり、
“ストレンジャー”だ。 素晴らしい曲だし、当然、私も大好きな曲。 大事な曲。
しかし、このライブを聴き、なおかつ、ここ近年の精力的なライブ活動を知ると、
ビリーの最大の魅力は、”静と動のコントラスト。” これなんじゃないかなぁ。

美しいメロディと情景が目に浮かぶような詩の世界。 そして、ピアノの調べ。
これが、“静”の魅力。 (コレが日本人の心の琴線を触れさせるのだ。)
このライブに見られるようなエネルギッシュで、汗がほとばしるようなアツさ。
そして時に、社会的メッセージを掲げ、怒りや疑問を硬派に問うアツさ。
鍵盤の上に立ち上がり、拳を突き上げるほど、湧き上がってくるエネルギー。
これが、“動”の魅力。 (コレがあるから、永遠に我々を魅了させるんだ。)
相反する魅力。 泣かせといて、盛り上げる。 やっぱこういうのには弱いのよ。
このアルバムには、ビリー自身がライナーノーツを寄せている。
よほどの愛情がこめられているんだろう。 その最後の一節にこうある。
「 君の家にPAシステムがないことはわかってるけど、
本物に近い音が聴きたいなら、うるさい隣の人を自宅に呼んで、
出来るだけ大きな音で聴いてごらん。 」
ビリーがこんなアツい奴だなんて思わなかった人。
それこそ、火傷しますよ。
今年の中途半端な夏よりも、こんなにもエネルギッシュで、断然にアツイ。
最高の一枚だ。

Miami 2017 (Seen The Lights Go Out On Broadway)
マイアミ2017
Summer, Highland Falls 夏、ハイランドフォールにて
Streetlife Serenader 街の吟遊詩人は...
Los Angelenos ロスアンジェルス紀行
She's Got A Way シーズ・ガット・ア・ウェイ
Everybody Loves You Now エブリバディ・ラブズ・ユー・ナウ
Say Goodgye To Hollywood さよならハリウッド
Captain Jack キャプテン・ジャック
You're My Home 僕の故郷
The Ballad Of Billy The Kid さすらいのビリー・ザ・キッド
I've Loved These Days 楽しかった日々
最近、またよくライヴ盤を聴くようになった。
これといってライブに行く機会もめっきり減って、無意識に体が“欲して”いるのか
わかんないんだけど、なんか、あの“アツい”雰囲気が実に心地いいのだ。
特にジャンルや特定のアーチストのヤツってのはないんだけど、片っぱしに。
そこで、20年以上(いや、もっと前かな)聴いてなくて、久しぶりに耳にしたコレ。
しかし今に至っても、当時の感動が甦ってくる。 名曲名演は、時代を超えるんだ。
でも、“屋根裏”ほど奥にはしまってなかったけど、ちょっと埃かぶってました・・。
ごめんね、ビリー・・。
ガキの頃、TVで偶然見た、ビリーがライブハウスで歌う、“さよならハリウッド”。
鮮烈だった。 瞬きするのが、嫌なくらいに見た。 真剣に見た。
素晴らしい。 ブラボー。 実に素晴らかった。 TVに向かって拍手したっけ。
そして、私が生まれて初めて手にしたライブ盤がコレだった。
80年6~7月の「GLASS HOUSE」の全米ツアーからのライブ・レコーディングで、
ビリーにとって初の公式ライブ盤。 しかし、かなり異色の内容だった。
当時、飛ぶ鳥を落とす勢いのビリー。 ヒット曲満載の構成かと思いきや、
「THE STRANGER」でビッグ・ヒットした以降の曲は、まるで無視して、
メジャー・デビューして、初期の全く売れなかった時代の4作品からの選曲に。
自身初のライブ盤としては、ある意味“無謀”な企画。
皆が“素顔のままで”や、“マイ・ライフ”が聴きたいはずなのに。
「SONGS IN THE ATTIC (屋根裏部屋にしまっておいた曲たち)」

ビリーは今まで、日の当たらなかった隠れた曲ばかりをあえて選んだ。
思うに、自らの曲に対する愛情が我々の想像を超えるほど深いこと。
そして、とても大事にしていること。 売れてる売れてないは関係ない。
ヒット曲という“地位”、“称号”は、我々ファンが与えるもの。
ビリー自身にとっては、ヒット曲。 イコール。 愛情が深いとはならないんだ。
この80年くらいに、ビリーのバンドが、がっちり固定された。
ドラムにリバティ・デヴィート。 ベースにダグ・スティグマイヤー。(95年に没)
の土台に、ギタリストにデヴィッド・ブラウンとラッセル・ジャヴァーズ。
花形サックスは、あのリッチー・カナータ。 そして、天才ピアノマンのビリー。
このバンドの演奏力と安定感が“屋根裏の曲”に、新たな生命力と輝きを与える。
影の大傑作「ニューヨーク物語(TURNSTILES)」から4曲セレクトされているが、
聴き始めた当初は、“さよならハリウッド”の爽快で切れのあるアレンジに圧倒、
(アルバムでは、スペクターの“音の壁”をオマージュした作りだったけど)
“夏、ハイランドフォールにて”の切ないメロディと、“楽しかった日々”での美しい
ピアノの旋律に涙がちょちょ切れ。 すぐにアルバムの虜になってしまうはめに。
ただ、“マイアミ2017”の歌詞には、当時は非現実的な歌詞だなぁと思ってたけど、
まさか、あの悲劇(9・11)を予言してたかの内容は、今でもショックを覚える。
( 「ブロードウェイの灯が消えてしまった・・。
エンパイア・ステイト・ビルは倒されてしまい、人々は避難する。」
この曲を、2001年のMSGでのNY追悼チャリティ・ライブで歌うビリー。
怒ってた。 心底、怒ってた。 アツかった。 これぞ、ロックだ。 )
また、隠れデビュー作の「COLD SPRING HARBOR」の存在を知ったことも。
(才能の片鱗は見せたのもの、まだ原石のまま。 案の定、全く売れず。
おまけにトラックダウンの際に、マスターテープのスピードを速く録音されて、
ビリーの歌がやたらカン高くて、聴きづらい。 スタッフ何してんの?
悪徳プロデューサーによる印税の呪縛から解放され、83年12月には、
テープ回転が、きっちり修正され、一部アレンジも変えて再発された。)
“She's Got A Way”は、この叙情的でしっとりした雰囲気と美しさは、
この頃からすでに“オネスティ”のプロトタイプを書いていたといえるし、
オリジナルでの、ビリーの超人的早弾きと、流暢なメロディラインが印象的な
“Everybody Loves You Now”は、このバンドでは、ギター・カッテイングで
アレンジされ、アコースティック・ロックに甦らせる。 このセンスには脱帽。
でもやっぱ日本じゃ、ビリーは、“素顔のまま”であり、“オネスティ”であり、
“ストレンジャー”だ。 素晴らしい曲だし、当然、私も大好きな曲。 大事な曲。
しかし、このライブを聴き、なおかつ、ここ近年の精力的なライブ活動を知ると、
ビリーの最大の魅力は、”静と動のコントラスト。” これなんじゃないかなぁ。

美しいメロディと情景が目に浮かぶような詩の世界。 そして、ピアノの調べ。
これが、“静”の魅力。 (コレが日本人の心の琴線を触れさせるのだ。)
このライブに見られるようなエネルギッシュで、汗がほとばしるようなアツさ。
そして時に、社会的メッセージを掲げ、怒りや疑問を硬派に問うアツさ。
鍵盤の上に立ち上がり、拳を突き上げるほど、湧き上がってくるエネルギー。
これが、“動”の魅力。 (コレがあるから、永遠に我々を魅了させるんだ。)
相反する魅力。 泣かせといて、盛り上げる。 やっぱこういうのには弱いのよ。
このアルバムには、ビリー自身がライナーノーツを寄せている。
よほどの愛情がこめられているんだろう。 その最後の一節にこうある。
「 君の家にPAシステムがないことはわかってるけど、
本物に近い音が聴きたいなら、うるさい隣の人を自宅に呼んで、
出来るだけ大きな音で聴いてごらん。 」
ビリーがこんなアツい奴だなんて思わなかった人。
それこそ、火傷しますよ。
今年の中途半端な夏よりも、こんなにもエネルギッシュで、断然にアツイ。
最高の一枚だ。
手放しで歓喜!! お帰り、ビリー!!
12 GARDENS LIVE
BILLY JOEL

<Ⅰ> Angry Young Man (怒れる若者)
My Life (マイ・ライフ)
Everybody Loves You Now (エヴリィバディ・ラヴズ・ユー・ナウ)
The Ballad Of Billy The Kid (さすらいのビリー・ザ・キッド)
The Entertainer (エンターティナー)
Vienna (ウィーン)
New York State Of Mind (ニューヨークの想い)
The Night Is Still Young (ナイト・イズ・スティル・ヤング)
Zanzibar (ザンジバル)
Miami 2017 (マイアミ2017)
(I've Seen The Lights Go Out On Broadway)
The Great Wall Of China (グレイト・ウォール・オブ・チャイナ)
Allentown (アレンタウン)
She's Right On Time (シーズ・ライト・オン・タイム)
Don't Ask Me Why (ドント・アスク・ミー・ホワイ)
Laura (ローラ)
A Room Of Our Own (ふたりだけのルーム)
<Ⅱ> Goodnight Saigon (グッドナイト・サイゴン~英雄達の鎮魂歌)
Movin' Out (Anthony's Song) (ムーヴィン・アウト)
An Innocent Man (イノセント・マン)
The Downeaster “Alexa” (ザ・ダウンイースター・“アレクサ”)
She's Always A Woman (シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン)
Keeping The Faith (キーピン・ザ・フェイス)
The River Of Dreams (リヴァー・オブ・ドリームス)
A Matter Of Trust (マター・オブ・トラスト)
We Didn't Start The Fire (ハートにファイア)
Big Shot (ビッグ・ショット)
You May Be Right (ガラスのニューヨーク)
Only The Good Die Young (若死にするのは善人だけ)
Scenes From An Itallian Restaurant (イタリアン・レストランで)
Piano Man (ピアノ・マン)
And So It Goes (そして今は・・)
It's Still Rock And Roll To Me (ロックンロールが最高さ)
我々同世代の洋楽ファンにとって、やはりビリーは特別な存在だ。
優れたソングライター、エンターテイナーであり、摩天楼の詩人でもあり、
いかしたロックンローラーでもあり、永遠のピアノマンでもある。
みんなビリーの曲に思い出もあるし、思い入れだって強い。
そう、みんなビリーが大好きなんだ。
だから、「もうポップスは創らない」なんて言って、クラシックをやり出した時は、
悲しかったし、一線から姿を消してしまった時は、寂しい思いになったもんです。
でも約7年の沈黙の末(病にも打ち勝ち)、ビリーが帰ってきた。
これは、ほんと嬉しいカムバックだ。(ちょっと諦めてたとこもあったんで・・)
それも、地元ニューヨークはマジソン・スクエア・ガーデンを12日間連続で、
完売させるという大記録(延べ約23万人を動員!)で、見事に復活した。
素晴らしい。 このめちゃくちゃな盛り上がりと歓声といい、
ビリーも気合入って、このライブでの“やる気”と“意気込み”は相当なものだ。
ビリーのライブ盤は、名作ばかりだ。
私のビリーとの出会いとなった「SONGS IN THE ATTIC」('81)は、メジャーになる、
「THE STRANGER」以前の日の目を見なかった初期の名曲にスポットを当て、
全盛期のバンド・アンサンブルで、曲に新たな生命力を与えた名盤だし、
87年の「KOHUEPT(コンツェルト)」は、まだ社会主義体制だったソ連にて、
ペレストロイカのスローガンの下、“ロック親善大使”のごとく、
東側にロック、ポップスの布教活動の役を果たした歴史的ライブ盤だし、
2000年の「MILLENIUM CONCERT」では、世紀末を自身のキャリアの、
総括的ライブで見事に締めくくった。
そして、このライブ盤だ。 これも“名盤”必至だ。
プロデュースは、ビリーとU2やXTCなどで有名なスティーヴ・リリィホワイトだ。
今回は、“LIVE”にこだわった出来になってる。
アリーナ・クラスの録音だと、レンジが広くなり、音がモワ~ンとなってしまう。
(だから、エフェクトでバランスを整え、更にはオーヴァー・ダヴをやったりするんだけど)
これを逆に取ると、アリーナ全体の雰囲気や熱気をそのままパッケージングして、
ライブの臨場感を味わうことができる。
ビリーは、今回、オーヴァー・ダヴをあまりせず、“LIVE”にこだわった。
きっと観客と一体となったこのライブを壊したくなかったのだろうなぁ。
今回ほど、観客が一緒になって大合唱するライブ盤なんてなかったから。
オープニングの「Plelude~Angry Young Man」でのピアノの連打、速弾きから、
快調そのもの。 このライブは成功したようなもんだ。
選曲は憎いほど絶妙で、過去の全アルバムからチョイスされた、
いつもの大ヒット曲や名曲はもちろん、
今まで一度もライブで演奏したことがない曲も含む、マニアも唸る、
レア・トラック満載で、それが更に感動させられる。
「The Entertainer」、「The Night Is Still Young」、「Zanzabar」、
「She's Right On Time」、「Keeping The Faith」などなど・・。
今まではステージで再現することが困難だった楽曲も新たにメンバーを加えることで、
アレンジの妙も手伝って、曲に新たな息吹を与えてる。
まるで、現代版「SONGS IN THE ATTIC」の姿が垣間見えるようだ。
古くからのファンなら、今回のバンドにドラムのリバティ・デヴィトの名がないのは、
残念なとこなんだけど、サックスであのリッチー・カナータが復活したことは、
実に喜ばしいサプライズだった。
隠れた名盤の「TURNSTILES(ニューヨーク物語)」から、初期のバンドでの、
花形プレイヤーは間違いなく彼。
“New York State Of Mind”のソロの熱いこと。 やはり“本物”は違う。
そして特筆すべきは、ビリー本人だ。 マジで調子がいい。
さすが全盛期の頃のパワーや躍動感はもうないし、曲によってはキーを下げて、
歌わないとキツいとこもあるんだけど、円熟味と情感あふれる表現力と、
伸びのあるヴォーカルは、ブランクと年齢を感じさせない。
それと、さすがは“ピアノマン”。 演奏技術とフィンガー・テクの高さは、
相変わらず、凄いに尽きる。
(“Everybody Loves You Now”は「SONGS IN THE ATTIC」では、
ギター・カッティングのアレンジだったけど、今回はピアノ・アレンジに!)
そして、遂に年末に日本にやって来る。
単独公演としては、11年振りだ。 (あの震災での伝説的ライブの時以来か・・)
「 行きてぇ~なぁ~。 マジで・・ 」
マジソン・スクエア・ガーデンの大きな会場に響き渡る“Piano Man”の、
大合唱を聴きながら、ただただこう思う、我ここにあり。

<Ⅰ> Angry Young Man (怒れる若者)
My Life (マイ・ライフ)
Everybody Loves You Now (エヴリィバディ・ラヴズ・ユー・ナウ)
The Ballad Of Billy The Kid (さすらいのビリー・ザ・キッド)
The Entertainer (エンターティナー)
Vienna (ウィーン)
New York State Of Mind (ニューヨークの想い)
The Night Is Still Young (ナイト・イズ・スティル・ヤング)
Zanzibar (ザンジバル)
Miami 2017 (マイアミ2017)
(I've Seen The Lights Go Out On Broadway)
The Great Wall Of China (グレイト・ウォール・オブ・チャイナ)
Allentown (アレンタウン)
She's Right On Time (シーズ・ライト・オン・タイム)
Don't Ask Me Why (ドント・アスク・ミー・ホワイ)
Laura (ローラ)
A Room Of Our Own (ふたりだけのルーム)
<Ⅱ> Goodnight Saigon (グッドナイト・サイゴン~英雄達の鎮魂歌)
Movin' Out (Anthony's Song) (ムーヴィン・アウト)
An Innocent Man (イノセント・マン)
The Downeaster “Alexa” (ザ・ダウンイースター・“アレクサ”)
She's Always A Woman (シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン)
Keeping The Faith (キーピン・ザ・フェイス)
The River Of Dreams (リヴァー・オブ・ドリームス)
A Matter Of Trust (マター・オブ・トラスト)
We Didn't Start The Fire (ハートにファイア)
Big Shot (ビッグ・ショット)
You May Be Right (ガラスのニューヨーク)
Only The Good Die Young (若死にするのは善人だけ)
Scenes From An Itallian Restaurant (イタリアン・レストランで)
Piano Man (ピアノ・マン)
And So It Goes (そして今は・・)
It's Still Rock And Roll To Me (ロックンロールが最高さ)
我々同世代の洋楽ファンにとって、やはりビリーは特別な存在だ。
優れたソングライター、エンターテイナーであり、摩天楼の詩人でもあり、
いかしたロックンローラーでもあり、永遠のピアノマンでもある。
みんなビリーの曲に思い出もあるし、思い入れだって強い。
そう、みんなビリーが大好きなんだ。
だから、「もうポップスは創らない」なんて言って、クラシックをやり出した時は、
悲しかったし、一線から姿を消してしまった時は、寂しい思いになったもんです。
でも約7年の沈黙の末(病にも打ち勝ち)、ビリーが帰ってきた。
これは、ほんと嬉しいカムバックだ。(ちょっと諦めてたとこもあったんで・・)
それも、地元ニューヨークはマジソン・スクエア・ガーデンを12日間連続で、
完売させるという大記録(延べ約23万人を動員!)で、見事に復活した。
素晴らしい。 このめちゃくちゃな盛り上がりと歓声といい、
ビリーも気合入って、このライブでの“やる気”と“意気込み”は相当なものだ。
ビリーのライブ盤は、名作ばかりだ。
私のビリーとの出会いとなった「SONGS IN THE ATTIC」('81)は、メジャーになる、
「THE STRANGER」以前の日の目を見なかった初期の名曲にスポットを当て、
全盛期のバンド・アンサンブルで、曲に新たな生命力を与えた名盤だし、
87年の「KOHUEPT(コンツェルト)」は、まだ社会主義体制だったソ連にて、
ペレストロイカのスローガンの下、“ロック親善大使”のごとく、
東側にロック、ポップスの布教活動の役を果たした歴史的ライブ盤だし、
2000年の「MILLENIUM CONCERT」では、世紀末を自身のキャリアの、
総括的ライブで見事に締めくくった。
そして、このライブ盤だ。 これも“名盤”必至だ。
プロデュースは、ビリーとU2やXTCなどで有名なスティーヴ・リリィホワイトだ。
今回は、“LIVE”にこだわった出来になってる。
アリーナ・クラスの録音だと、レンジが広くなり、音がモワ~ンとなってしまう。
(だから、エフェクトでバランスを整え、更にはオーヴァー・ダヴをやったりするんだけど)
これを逆に取ると、アリーナ全体の雰囲気や熱気をそのままパッケージングして、
ライブの臨場感を味わうことができる。
ビリーは、今回、オーヴァー・ダヴをあまりせず、“LIVE”にこだわった。
きっと観客と一体となったこのライブを壊したくなかったのだろうなぁ。
今回ほど、観客が一緒になって大合唱するライブ盤なんてなかったから。
オープニングの「Plelude~Angry Young Man」でのピアノの連打、速弾きから、
快調そのもの。 このライブは成功したようなもんだ。
選曲は憎いほど絶妙で、過去の全アルバムからチョイスされた、
いつもの大ヒット曲や名曲はもちろん、
今まで一度もライブで演奏したことがない曲も含む、マニアも唸る、
レア・トラック満載で、それが更に感動させられる。
「The Entertainer」、「The Night Is Still Young」、「Zanzabar」、
「She's Right On Time」、「Keeping The Faith」などなど・・。
今まではステージで再現することが困難だった楽曲も新たにメンバーを加えることで、
アレンジの妙も手伝って、曲に新たな息吹を与えてる。
まるで、現代版「SONGS IN THE ATTIC」の姿が垣間見えるようだ。
古くからのファンなら、今回のバンドにドラムのリバティ・デヴィトの名がないのは、
残念なとこなんだけど、サックスであのリッチー・カナータが復活したことは、
実に喜ばしいサプライズだった。
隠れた名盤の「TURNSTILES(ニューヨーク物語)」から、初期のバンドでの、
花形プレイヤーは間違いなく彼。
“New York State Of Mind”のソロの熱いこと。 やはり“本物”は違う。
そして特筆すべきは、ビリー本人だ。 マジで調子がいい。
さすが全盛期の頃のパワーや躍動感はもうないし、曲によってはキーを下げて、
歌わないとキツいとこもあるんだけど、円熟味と情感あふれる表現力と、
伸びのあるヴォーカルは、ブランクと年齢を感じさせない。
それと、さすがは“ピアノマン”。 演奏技術とフィンガー・テクの高さは、
相変わらず、凄いに尽きる。
(“Everybody Loves You Now”は「SONGS IN THE ATTIC」では、
ギター・カッティングのアレンジだったけど、今回はピアノ・アレンジに!)
そして、遂に年末に日本にやって来る。
単独公演としては、11年振りだ。 (あの震災での伝説的ライブの時以来か・・)
「 行きてぇ~なぁ~。 マジで・・ 」
マジソン・スクエア・ガーデンの大きな会場に響き渡る“Piano Man”の、
大合唱を聴きながら、ただただこう思う、我ここにあり。
憧れのジュークボックスは自分で。
AN INNOCENT MAN
BILLY JOEL

Easy Money (イージー・マネー)
An Innocent Man (イノセント・マン)
The Longest Time (ロンゲスト・タイム)
This Night (今宵はフォーエヴァー)
Tell Her About It (あの娘にアタック)
Uptown Girl (アップタウン・ガール)
Careless Talk (ケアレス・トーク)
Christie Lee (君はクリスティ)
Leave A Tender Moment Alone (夜空のモーメント)
Keepin' The Faith (キーピン・ザ・フェイス)
摩天楼の息吹であり、詩人でもあり、ピアノ・マンでもあり、
そして、ロックンローラーでもあるエンターティナー、
ビリー・ジョエル。
たぶん我々の年代で、洋楽を初めて聴くきっかけになったアーチストは誰?って、
質問を受けたら、ベスト5には必ず入ってくるだろうかな。
逆にロック・ファンとしたら、“珠玉のヒットメイカー”というイメージがあるも、
良くも悪くも、(カーペンターズやホール&オーツなんかもそう)
嫌いではなくも、TOP40アーチストという軽い扱いをされてしまってる気がして、
(当時のアメリカも、そんな評価のされ方だった)
どうも残念でならんのです。
私は、入り口やきっかけがどうであれ、“敷居が低い”ということが、
けっしてアーチストのレベルが低いこととは比例しないことを、
声を大にして言いたい。
そんな考えは、82年発表された、悩めるアメリカを真摯に捉えて、
シリアスかつ重厚なメッセージで綴った名作「ナイロン・カーテン」で、
誤りであることに気がつくはずだし、
日本じゃ、同じく偉大なるソングライターでピアノマンのエルトン・ジョンより、
遥かに影響力が大きいんじゃないかな。
(ジョイント・ライブの際に、エルトンの数倍の喝采を、
受けてたのはビリーの方だったし)
このアルバムは、彼の少年時代に憧れてた50年代から、
60年代のオールディーズ黄金時代を自ら再現したものだ。
リアルタイムでは、陽気なポップソングを楽しんでいたけど、
今聞いてみると、「これカヴァー集かいな?」と錯覚してしまうが、
すべてビリーのオリジナル曲で構成され、
実に優れたポップス・アルバムであることに気づかされる。
“An Innocent Man”は、ベン・E・キングの趣きで、純真な男心を歌い、
“The Longest Time”は、ザ・タイムスをベースにした一人アカペラを披露、
(このアルバムでは、コーラスを含めヴォーカルはほぼビリーだけ)
名曲“This Night”では、ドリフターズを彷彿させるドゥワップに胸を打ち、
“Tell Her About It”は、MOTOWNのノリで、シュープリームスや、
マーサ&ザ、ヴァンデラスを思い出させる。
“Uptown Girl”じゃ、もろフォー・シーズンスで、当時の恋人
(2番目の妻クリスティ)へ求愛して、
“Careless Talk”で、サム・クックを気取ったと思えば、
“Leave A Tender Moment Alone”でバート・バカラック風のメロディに。
そこにメロウなハーモニカが絡み、実に素晴らしい。
それは、古き良きニューヨークのブリル・ビルディング・サウンドから、
MOTOWNやSTAXなどの初期R&Bや若きプレスリーやロカビリーに至るまで、
めくるめくアメリカン・ポップスの歴史へのオマージュであり、
多大なる感謝と尊敬に他ならない。
93年の「リヴァー・オブ・ドリームス」を最後に、
「もうポップスは作らない」と、クラシックを中心に創作する決意をした彼だが、
早く彼の“ポップス”が聴きたいと願っているのは、
私だけではないはず。
「若者向けの音楽があり、大人向けの音楽もある。
でも私は、若者と大人の音楽の架け橋を創りたい」と語る。
彼は、並みのソングライターではない。
人種、国境、世代の架け橋となって、愛され受け繋がれる。
偉大なるピアノ・マンには、
ポップスとロックンロールとニューヨークが一番よく似合う。

Easy Money (イージー・マネー)
An Innocent Man (イノセント・マン)
The Longest Time (ロンゲスト・タイム)
This Night (今宵はフォーエヴァー)
Tell Her About It (あの娘にアタック)
Uptown Girl (アップタウン・ガール)
Careless Talk (ケアレス・トーク)
Christie Lee (君はクリスティ)
Leave A Tender Moment Alone (夜空のモーメント)
Keepin' The Faith (キーピン・ザ・フェイス)
摩天楼の息吹であり、詩人でもあり、ピアノ・マンでもあり、
そして、ロックンローラーでもあるエンターティナー、
ビリー・ジョエル。
たぶん我々の年代で、洋楽を初めて聴くきっかけになったアーチストは誰?って、
質問を受けたら、ベスト5には必ず入ってくるだろうかな。
逆にロック・ファンとしたら、“珠玉のヒットメイカー”というイメージがあるも、
良くも悪くも、(カーペンターズやホール&オーツなんかもそう)
嫌いではなくも、TOP40アーチストという軽い扱いをされてしまってる気がして、
(当時のアメリカも、そんな評価のされ方だった)
どうも残念でならんのです。
私は、入り口やきっかけがどうであれ、“敷居が低い”ということが、
けっしてアーチストのレベルが低いこととは比例しないことを、
声を大にして言いたい。
そんな考えは、82年発表された、悩めるアメリカを真摯に捉えて、
シリアスかつ重厚なメッセージで綴った名作「ナイロン・カーテン」で、
誤りであることに気がつくはずだし、
日本じゃ、同じく偉大なるソングライターでピアノマンのエルトン・ジョンより、
遥かに影響力が大きいんじゃないかな。
(ジョイント・ライブの際に、エルトンの数倍の喝采を、
受けてたのはビリーの方だったし)
このアルバムは、彼の少年時代に憧れてた50年代から、
60年代のオールディーズ黄金時代を自ら再現したものだ。
リアルタイムでは、陽気なポップソングを楽しんでいたけど、
今聞いてみると、「これカヴァー集かいな?」と錯覚してしまうが、
すべてビリーのオリジナル曲で構成され、
実に優れたポップス・アルバムであることに気づかされる。
“An Innocent Man”は、ベン・E・キングの趣きで、純真な男心を歌い、
“The Longest Time”は、ザ・タイムスをベースにした一人アカペラを披露、
(このアルバムでは、コーラスを含めヴォーカルはほぼビリーだけ)
名曲“This Night”では、ドリフターズを彷彿させるドゥワップに胸を打ち、
“Tell Her About It”は、MOTOWNのノリで、シュープリームスや、
マーサ&ザ、ヴァンデラスを思い出させる。
“Uptown Girl”じゃ、もろフォー・シーズンスで、当時の恋人
(2番目の妻クリスティ)へ求愛して、
“Careless Talk”で、サム・クックを気取ったと思えば、
“Leave A Tender Moment Alone”でバート・バカラック風のメロディに。
そこにメロウなハーモニカが絡み、実に素晴らしい。
それは、古き良きニューヨークのブリル・ビルディング・サウンドから、
MOTOWNやSTAXなどの初期R&Bや若きプレスリーやロカビリーに至るまで、
めくるめくアメリカン・ポップスの歴史へのオマージュであり、
多大なる感謝と尊敬に他ならない。
93年の「リヴァー・オブ・ドリームス」を最後に、
「もうポップスは作らない」と、クラシックを中心に創作する決意をした彼だが、
早く彼の“ポップス”が聴きたいと願っているのは、
私だけではないはず。
「若者向けの音楽があり、大人向けの音楽もある。
でも私は、若者と大人の音楽の架け橋を創りたい」と語る。
彼は、並みのソングライターではない。
人種、国境、世代の架け橋となって、愛され受け繋がれる。
偉大なるピアノ・マンには、
ポップスとロックンロールとニューヨークが一番よく似合う。
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