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“天使のダミ声”、ディランがサンタ。 

     CHRISTMAS IN THE HEART   BOB DYLAN 

         

         Here Comes Santa Claus
         Do You Hear What I Hear?
         Winter Wonderland
         Hark The Herald Angels Sing
         I'll Be Home For Christmas
         Little Drummer Boy
         The Christmas Blues
         O' Come All Ye Faithful (Adeste Fideles)
         Have Yourself A Merry Little Christmas
         Must Be Santa
         Silver Bells
         The First Noel
         Christmas Island
         The Christmas Song
         O' Little Town Of Bethlehem

 考えてみたら、奇跡の英米No.1アルバムに輝いた「TOGETHER THROUGH LIFE」
 から、わずか半年の間隔で発表されたのは、ディラン初の“まさかまさか”の
 クリスマス・アルバムだ。 この貪欲な創作意欲には頭が下がります。

 しかし、ここ最近の“仙人様”は、リバプールにライブで訪れた際に、
 一般の観光客に混じって、ジョンの生家に行ったり、(なんか観光ツアーバス
 にも、普通に乗ってたみたい。 それに誰も気がつかなかったようで・・。)
 街を歩いてたら、若い警官に不審者として職務質問されたりと・・。
 (あなたは“伝説”なんですよ。 名前言っても、信じてくれなかったようで・・。 
  もうそろそろ“徘徊”してもおかしくない歳なんですが・・。 68歳ですもん。
  でも、なんかオーラみたいなものはもうないんかなぁ、全く・・。)
 ほんとに笑わせてくれますが、今度はクリスマス・アルバムの発表・・。

  

 何で、また?  どうしちゃったんでしょう・・。 

 ただよく考えてみると。  釣鐘型の鼻したこてこてのユダヤ人顔してる 
 ディランは、1979年にユダヤ教からボーン・アゲイン・クリスチャンに
 突然改宗。 いろいろ物議を醸し出したんだけど、聖書を学び直し、
 より普遍的な人生観を見出して制作したアルバム「SLOW TRAIN COMING」は
 賛否両論飛び交う話題に。 後の3作は「ゴスペル3部作」として認知されてる。
 (「INFIDELS」では、またユダヤ教に改宗したなんて噂されたこともあった。
  でも「異教徒」ってタイトルじゃ誤解もされるし、エルサレムの丘で
  ひざまずく写真はいけません。 ますます誤解されます。)
 その後の作品においても、キリスト教の影響が見え隠れする歌も書いている。
 新生キリスト教に寝返ったディランがクリスマス・ソングを歌っても、
 何の不思議もない。

 しかし、この人は、歌いたい詩を書き、歌いたい曲を歌ってきた人。
 とっても自然な人なんです。 みんなが言うほど、難しい人じゃないんです。

 だから、「困ってる奴がいっぱいいる・・。 私の歌で少しでも救えるなら」と
 サンタさんにもなるんです。 クリスマス・ソングだって歌っちゃいます。
 (このCDの印税の全額が、永久的に食糧問題に取り組む団体に支払われる。
  つまり、このCDを買ったら、それがそのまま募金されるワケだ。)
 

 そんなディランのクリスマス・アルバム。 ということは・・。
 たぶん、格式あるトラディショナル・ソングでも歌ってるんだろうなぁ・・。
 渋く決めてるんだろうなぁ・・。 と思いきや、 曲目を見ると。

 “サンタクロースがやってきた”に、 “ウィンター・ワンダーランド”に、
 “天には栄え”に、 “リトル・ドラマー・ボーイ”に、 “牧人、羊を”に、
 “あなたに楽しいクリスマスを”に、 “ザ・クリスマス・ソング”・・。
  なんと定番中でベタベタのクリスマス・ソング集とは。

 でも、表ジャケはなかなか渋い。 トラディショナルっぽいセンス。
 おまけに、クリスマス・カード付き。 封筒付きでどっさり。

 しかし、裏ジャケはコレ。

   

 ・・・。  何ですか、コレは。  ベティ・ページのセクシー・サンタ・・。
 コレって、50年代のプレイメイトでは。  ほんと笑わせてくれます。

 定番のクリスマス・ソングなんで、当然スペクター・サウンドを基本に、
 しかも、その流れをしっかりと汲みながら、さらにそこから余分なものを
 すべてを、そぎ落としたかのような極上のアレンジ。 しかも骨太。
 さすがはプロデューサー、ジャック・フロスト。(ディランの変名です)

 シャンシャンと、鈴の音が聞こえてきて、夢見るように美しいコーラスが響き、
 ストリングスがやさしく震えて、雪の降りしきる美しい街の情景が浮かぶかの様。
 思わず、シナトラやグロスビーの美声に酔いしれたい雰囲気。

 そして、そこに満を持して飛び込んでくるのは・・。 あの声だ。 だみ声・・。
 いや、ただのだみ声ではない。 還暦を優に超したディランの“しゃがれただみ声”だ。 
   
 しかし・・。 これもアリかなと。 とにかく楽しそうなんですもん。
 聴いているうちに、味が出てくるんです。 これこそ、“天使のだみ声”だ。
  
 かつては、“神の声”とまで、讃えられたディラン。
 “老人の声”という、インパクトの強い“外観”に惑わされちゃいけませんよ。
 純粋に耳を傾けてごらんなさい。  きっと伝わるはずです。
 真剣勝負で“歌”を歌っているディランに気付くはずなんです。
 それは、“Like A Rolling Stone”や“It's All Over Now, Baby Blue”とかに
 向き合った“真面目さ”となんら変わっていない、全身全霊をかけた真摯な姿勢で、
 これらのクリスマスの名曲に向き合っているんです。
 力のかぎり、“しゃがれただみ声”を搾り出している。 シャウトしてるんですよ。

  

 さて肝心の音だが、「MODERN TIMES」以来の好調さを維持していると思う。
 「TOGETHER THROUGH LIFE」でのマイク・キャンベル(g)を除いた
 バック・メンバーをここでも起用。 トニー・ガーニエ(b)を中心とする
 バンドがしっかり支えているし、今回もロス・ロボスのデヴィッド・イダルゴの
 アコーディオンやバイオリンの音色も、実にいいアクセントだ。

 カリフォルニアにあるジャクソン・ブラウンが所有しているマスター・スタジオで
 今年の5月にレコーディング。 曲の表情に応じて、バンドの演奏もディランの歌唱も、
 時に厳かに、時に軽快に、クリスマス・ソングの王道を行く。 
 私が知らなかった歌も、けっこうあるし、
 ディラン流クリスマス・ソング・スタンダード・コレクション
 と言える作品ではないか。

 しかし、子供が絶対に怖がるクリスマス・アルバムには違いないけど。

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2009/12/19 Sat. 21:35 [edit]

Category: ボブ・ディラン

Thread:洋楽CDレビュー  Janre:音楽

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