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売られたケンカは“音”で買う。 (改訂版) 

        SOME GIRLS  THE ROLLING STONES

         

          Miss You
          When The Whip Comes Down
          Just My Imagination (Running Away With Me)
          Some Girls
          Lies
          Far Away Eyes
          Respectable
          Before They Make Me Run
          Beast Of Burden
          Shattered


 少々間を開けましたが、遅きの“マイ・ストーンズ・ムーブメント”中ゆえ、
 続けて参ります。

 先日届きました。  シングル・ボックス1971~2006。

 凝ったイラストを施した、重厚なパッケージングの中には、
 45枚の紙ジャケ化したシングルがギッシリ。 
 「おお、これだぜ・・。」  
 この“作り”に、この私も久々ご満悦。
 この45枚ってのは、シングル盤(ドーナツ盤)の回転数とも掛けてんですな。
 芸が細かい。

          

 ただ・・。 100点満点はつけられないなぁ。 
 75点。  
 それでも甘めですが。

 1枚目の“Brown Sugar”のピクチャー・スリーブの復刻は見事なんだけど、
 基本的には、当時の英米のシングルのジャケットのフォーマットに
 忠実に再現している形になってるんで、
 次の“Wild Horses”から、9枚目の“Hot Stuff”まで、
 あのベロのイラストのスリーブなのだ。
 この辺、何とかなんなかったかなぁ・・。 惜しい。  
 確かに当時の英米のシングル盤では、
 ピクチャー・スリーブはあまりなかったけど(日本盤では有り得ない)、
 この辺のシングルは日本盤も独自のスリーブで発売しているし、
 ヨーロッパの各国ではセンスのいいジャケットが沢山あったのに・・と。 
 (日本盤の“Wild Horses”や“It's Only Rock'n Roll”なんか見事な
 センスだったし、フランス盤の“Fools To Cry”は、別アングルの写真で、
 なかなかのモノでした)
 でも、作り的には問題なし。 さすがは“Made In Japan”。 
 日本製です。

 では肝心の音源はというと・・。
 皆さん思われてる通り、“ここまでやるんなら”感強し。
 企画当初は、全てオリジナル・シングル音源を採用して復刻する予定だったのに、
 なぜか、
 (この“文句”でオーダーしたというマニアも多いでしょう。 私もその一人です)
 発売が近づいてくると、初期のMONOミックスは、どんどん“通常テイク”に変更
 されていき、 (シングル盤発売当時は、4枚目の“Happy”までがMONOミックスでした) 
 残念ながら、
 結局MONOミックスは“All Down The Line”の1曲のみの収録となってしまった。 
 ただ、
 この曲のMONOミックスは、別ミックスでは特に際立っていたので、
 これは大いに評価したい。
 (“Sway”は、当時のシングル盤に合わせて、リマスター音源を当時のエディットに
  加工してる)
 
 そんなボックスの中でも70年代後半に突入すると、12インチ・シングルなるものが
 シーンを席巻し始めることになり、7インチ・シングルのエディット・バージョンとは
 逆になる形で、リミックスやダブなどを多用したエクステンテンデット・バージョン
 (ロング・バージョン)が出現してくる。

             

 その12インチになるが、“Too Much Blood”は入れるべきだった。 
 これは大きなマイナス。
 ストーンズの12インチ・リミックスだと、“Undercover Of The Night”の出来が
 秀逸だけど、“Too Much Blood”のアーサー・ベーカーが施した、
 過激で大胆なダブ・ミックスは凄かった。
 何で“Too Tough”なんか入れたの?  これがシングルカットされてるの
 知らなかったし。 枚数合わせなのか、7インチにこだわるのか。
 でも12インチ・シングルも45回転なのにね。

 マニアの端くれの私ゆえ、重箱の隅をつつくような“モノ申す口調”で
 申し分けありません。
 言い出したら、キリがありませんし、真のマニアは、
 当時のアナログ盤で既にゲット済みのはず。
 (私は、貴重なアナログ盤は、かなり昔に売却してしまい、
  今はほとんど手元にはありません)
 しかし、これは言いたい。
 「よくぞ出してくれました。 ユニバーサル、あんたはエラい!」
 ユニバーサルのアーカイブ企画の本気度が良く分かる、
 極上のブツであることには違いありません。

 ただ喜んでるのは、
 コアなストーンズ・マニアだけだろうなんだろうなぁ・・とも。  
 
 今宵は、このブログで2005年9月に書いてる「SOME GIRLS」の話がしたくなりました。
 一度取り上げている78年の傑作ですが、加筆改筆した改訂版にて、
 よろしくお付き合いを。

      

 77年3月、カナダのエル・モカンボでのギグ
 (ライブ盤「LOVE YOU LIVE」のC面でお馴染み)
 に向かったトロントで、キースがヘロイン所持のために税関に引っ掛かり、
 逮捕されてしまう。
 エル・モカンボのギグは無事に終えたものの、キースは1ヶ月近くカナダを
 出国できず、出国後も裁判処理やドラッグ治療に取り掛かり、
 ストーンズどころじゃなくなってしまう。
 (保釈の条件のひとつに、目の不自由な人のためのチャリティ・コンサートを行う
  約束をされた)
 キースは心身ボロボロ。
 この一件で、ストーンズは危機を迎えてしまっていた。 
 
 対して、当時の音楽シーンは、パンク・ムーブメントが主流に躍り出て、
 ニュー・ウェイブの嵐が吹き荒れた頃。  
 ZEPやフロイドと並んで、ストーンズも“ロートル”の筆頭と揶揄され、
 「もう古い。 お前らはもう要らない」と、奴ら(パンク勢)の格好の
 攻撃材料とされていた。

 当時ミックとキースは、丁度ニューヨーカーになってた頃。 
 当然こんな雑音は耳に入ります。
 黙ってられるワケがありません。 
 生意気なガキどもには、キッチリ“おとしまい”をつけなきゃいけない。 
 ましてや“流行りモノ”好きな彼ら(特にミック)ですし。
 キースは保釈中の身であり、状態も芳しくなく緊迫した中でも、
 己の存在感と真の“パンク・スピリッツ”を突き付け、
 奴らに対する“意地”と“返答”する必要があったワケです。

 69年から長年連れ添ってきたビリー・プレストン(Key)や
 ニッキー・ホプキンス(key)も、あまりにダラダラした曲調に嫌気がさして、
 スタジオを去った“6人目のストーンズ”である
 イアン・ステュワート(p)など、このレコーディングには参加せず、
 新たに呼んだのは、元フェイセズのイアン・マクレガン(Key)と、
 シカゴで発掘したブルース・ハープの名手シュガー・ブルーに、
 元キング・クリムゾンのメル・コリンズがサックスで加わった。
 
 過去にあった独特のグルーヴ感が後退してしまうも、
 音像に隙間ができたスペースをキースとロニーに、ミックも積極的にカッティング
 してギター・アンサンブルで絡ませる“トリプル・ギター”で、
 荒削りでラウドなギター・オリエンテッドなサウンドに仕上げ、
 シンプルでスピーディーなパンク要素も取り込んだ
 エネルギッシュなアルバムになった。

 ゲイになった事をバカにした奴らには、「運命のムチが振り落とされる」と
 警告する“When The Whip Comes Down”に、
 「嘘」を攻め、騙され、嘆き、陥ることを叫ぶ“Lies”に、
 当時、浮気疑惑の渦中だったミック夫人のビアンカに
 「尊敬すべき女だが、不愉快な奴」とキレまくる“Respectable”と、
 3本のギターの絡み具合が今までとは違ったグルーヴ感を
 生みつつ、突っ走っていくロックンロール・スタイルは、
 3コードで一夜漬けの“ポッと出”の野郎どもには、
 到底真似出来ない緻密な音なのだ。

     

 とはいえ。 
 ただの“ストーンズ流パンク・アルバム”に成り下がらないのが、
 彼らの“したたかな”ところ。

 当時隆盛を極めていたディスコ・ビートに迎合してしまったと一部では
 批判された、彼らの代表曲でもある“Miss You”だが、
 これはストーンズなりの“時代への目配せ”と
 捉えた方がいいだろう。
 何度も書くが、彼らは“流行りモノ”が好きなのだ。
 悪い曲じゃない。 
 むしろちゃんと聴くと、ビルのベースはいつになくブンブン刻んでるし、
 チャーリーのハイハットさばきは絶妙。
 ミックのファルセット・コーラスもセクシャルだ。
 しかし、スカスカな音の隙間をギター・カッティングが瞬間を切り裂く
 タイミングや、
 シュガー・ブルーのハーブとメル・コリンズのサックスの絡ませ方なんて、
 ジャズっぽい。
 完全なディスコ曲になるなど、彼らのプライドが許すはずがないのだ。

 シングル・エディット・バージョンと12インチ・リミックス・バージョンを
 担当したのは当時は新人だったボブ・クリアマウンテン。
 この曲で初めて彼らの曲を手掛けることになる。
 この凹凸度とメリハリの効いたミックスは実に刺激的に仕上げられている。
 アルバム・バージョンがショボく聴こえてしまうほどだ。 
 ぜひ聴き比べていただきたい。

    

 その“Miss You”の裏にカップリングされたのが、
 カントリー・ホンクな“Far Away Eyes”。
 ディスコ調のシングルの裏がカントリー曲という、
 振り幅の広さが彼らの真骨頂だろう。
 ワザと南部訛りに似せたミックも、ロニーのペダル・スティールも
 いい雰囲気を醸し出す。
 ベイカーフィールドへの思いに乗せた詞も、
 亡きグラム・パーソンズへのオマージュだろう。

 ミディアム・ナンバーも実に味わい深い。  
 この懐の深さは、さすがだ。
 シュガー・ブルーのハーブをフューチャーしたモダン・ブルース“Some Girls”に、
 (歌詞がヤバくて・・。 女性を何だと思ってんだか。)
 それと、カーティス・メイフィールドの影がちらつく、
 キース主導で書かれたミディアム・スローの傑作“Beast Of Burden”だ。
 ミックのファルセットを使い分けたシンコベートとキースとロニーの粘っこい
 カッティングが、チャーリーのスネアとビルのベースに上手くフィットした、
 哀愁漂うストーンズ流R&Bに。
 (この左下ジャケットは、アメリカ盤初回プレスですが、
  女性蔑視の疑いで発禁になったもの。
  やはり今回のシングル・ボックスでも残念ながら、これは実現されませんでした。)
 
    

 “Shattered”は、何だろう・・。  何か変な曲っていうか・・。 
  やっぱ変。
 「この街には、欲望と汚れた夢とセックスばかり。
  もう心は粉々に砕けちまった。」と、
 どうしようもないニューヨークの荒廃したアンダーグラウンドな部分を
 さらけ出した佳曲だが、
 疾走する変速16ビートに、ロニー自身が弾くベースの上に乗っかってるけど、
 曲の骨格となるクネクネしたクセのある歪んだロニーのリフが
 曲をリードして、ミックの声もストリートを意識したラップ気味のボーカルが
 混沌度を増して、曲をより複雑にして進んでいく。
 (B面にカップリングされた“Everything Is Turning To Gold”は、
  「SOME GIRLS」のアウトテイクだが、何故外されたか疑問を抱くほど、
  実に良く出来たルーズなロックンロール。
  チャーリーのやたら音数の多いハイハットでリードして、
  メル・コリンズとシュガー・ブルーといったセッションメンのプレイが印象的だ)
 
 先に書いたキースの逮捕劇からの再出発宣言ともいうべき、
 “Happy”と並ぶ、ライブでのキース・タイムの定番になった
 “Before They Make Me Run”にも触れておかねば。
 二日酔いやドラッグの覚醒から目を覚ますような
 5弦ギターのキックからスタート。
 ドラッグ治療のせいで、声変わりする前の、か細いボーカルが
 今では懐かしい感じがするが、
 「人に走らされる前に、俺から歩き出すのさ」と
 再出発を誓う姿が頼もしい。
 キースは、ジャンキーなのだ。 
 しかしドラッグはもう足を洗った。 
 “ロックンロール・ジャンキー”なのだ。 
  ロックンロールに侵されきった男。
 そうあるべき。  これこそ、キース・リチャーズであるべき姿。
 キースの精神力と頑張りが
、どれだけ、このアルバムのテンションを高めてることか。

         

 この曲は、アメリカでプロモーション・シングル盤が制作されている。
 やたらベースがブンブン唸って、
 メリハリがあるなぁと思ってたら、ミックスはボブ・クリアマウンテンが担当していた。
 歌詞も途中で違うし、ギター間奏部分も
 フレーズが変えてあるという、とても興味深いリミックス・バージョンだった。
 今では、なかなか聴くことはできないかと思うが、
 私はこのバージョンが好きで、
 アルバムに差し替えて聴いていたくらいだ。

 このように。
 「金と女とシャンパンに溺れ切った空虚なロックスター」と
 血気盛んなパンクスに罵倒されるも、
 この「SOME GIRLS」でのキレのある鋭い一撃が、
 奴らの頬を張り倒して、黙らせることができ、
 成熟や貫禄にドップリ浸かることなく、
 来るべき80年代に臨戦態勢を整えることができたのだろう。

 とは言うものの。
 そんなパブリック・イメージを逆手に取ったような
 (茶化したような)派手でゴージャスなジャケットや、
 (やはり肖像権の問題でモメて、2ndプレスから著名人がカットされてしまう)
 グルーピーとの“交遊録”ともいえるタイトルから、
 悦楽と酒池肉林のデカダンスの匂いをプンプンと漂わせる、
 マガマガしさと言ったら・・。

 ストーンズほど、図々しいバンドはいないだろう。  
 もちろん、最高の褒め言葉であるが。
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2011/05/03 Tue. 19:36 [edit]

Category: ローリング・ストーンズ

Thread:洋楽CDレビュー  Janre:音楽

TB: 1  /  CM: 2

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この記事に対するコメント

今晩は

シングル・ボックス1971~2006を購入されたのですね。
実にうらやましい。

ミキタカ08 #- | URL | 2012/03/10 22:37 * edit *

 >ミキタカ08さん。
 こんばんは。  大変長くご無沙汰いたしております。
 ずいぶん前にコメントいただいていたにも関わらず、
 申し訳ありませんでした。
 要約、重い重い腰が浮いたので、再復活する所存でいます。
 今後も、お付き合いいただければと思っております。

 私が休んでる間に彼らもデビュー50周年を迎え、いまだに
 ロック界の頂点に君臨しております。  いやぁ~、スゲエのなんの。
 また彼らのことは、じっくり語ってまいりたく思っております。

たか兄 #- | URL | 2013/02/17 18:30 * edit *

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 | 2012/11/04 16:06

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